3-河南が可愛い

3/5
前へ
/40ページ
次へ
握った河南の手を掲げ、サンプルをほんの少し手首に塗り込む。 「うん、河南にはこういった香りの方が合う」 肌にふれそうなほど鼻を寄せ、クン……と河南の手首を嗅いだ。 うん、やっぱりいい。 「あう……やっめろよ、マジ恥ずかしい」 河南の頬が一気に赤くなった。 今日一番の可愛さだ。 照れて恥ずかしがる河南は可愛い。 覚えたぞ。 うん。 これからちょくちょく照れさせてやろう。 河南が反対の手首に自分でウッディーな香りを塗った。 悪くはないがやっぱり柑橘系の方が似合う。 「……買わないのか?」 「え、いいよこんなの。勿体ない」 気にはなるけど、買う踏ん切りはつかないといったところだろうか。 俺はさらに練り香を指に取って、河南の首筋に塗り込んだ。 「うへっっ!? なんだよっ!」 「太い血管の近くにつけるのが基本らしいぞ。気に入ってるんだろう?今日一日この香りをまとっていればいい」 再び香りを確認するため、首に顔を近づけてクン……と、嗅いでみた。 ビクビクっと河南が震える。 「やめろっっ!」 ああ、俺の息がくすぐったかったのか。 なかなかの感度の良さだな河南。 素朴な外見に似合わずスケベ。うんうん、男はそうじゃなくちゃな。 河南が眼鏡を見たいと言いだしたので、雑貨屋の並びの安くてオシャレなフレームが人気の店に向かった。 ……なんだ? 急に河南のテンションが上がった。 眼鏡をかけていないくせに眼鏡好きなのか。 河南が俺にとっかえひっかえ眼鏡をかけさせては、コレが似合う、これも似合う……とはしゃいでいる。 全部似合っててどれもカッコいいって、どんだけ俺の事が好きなんだ河南。 眼鏡をかけるたびに河南が俺をカッコいいと褒めちぎる。 小学生の頃からずっと俺を見つめてきた河南だが、こんな素直な反応を見せたことは未だかつてない。 今日の初デートで河南の心が開き、俺への想いが止められなくなってしまったんだな。 いつも好意を顔に出さない河南が、目がハート状態で眼鏡を試着する俺を見ている。 なんとも気分がいい。 俺の格好良さに夢中過ぎて、自分が眼鏡を試着しようという気すら起きないようだが、どうせなら河南に似合う眼鏡も選んでやりたい。 ……恐らく派手なのは嫌うだろう。 基本黒だけど、明るい水色を挟み込んでいて見る角度によって印象のかわるフレーム。素朴な河南に似合いそうだ。 俺が選んだ眼鏡を、河南が恐る恐るかける。 小動物のような河南が可愛い。 「ああ、やっぱり似合うな」 俺の言葉に河南が子供のように頬を染めた。 いちど試着すると火がついたのか、河南はアレもこれもと試着を始めた。 意外に派手な色で細いフレームの眼鏡も似合う。 「よく似合ってる」 顔を覗き込んで微笑むと、ツルを押し上げながら河南が満面の笑みを浮かべた。 だけどやっぱり、俺が最初に選んだ眼鏡が一番似合っていた。 そして河南自身もそれを気に入ってるようだ。 つまり、俺好みになりたいってことか河南。 可愛い過ぎるだろう河南。
/40ページ

最初のコメントを投稿しよう!

261人が本棚に入れています
本棚に追加