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握った河南の手を掲げ、サンプルをほんの少し手首に塗り込む。
「うん、河南にはこういった香りの方が合う」
肌にふれそうなほど鼻を寄せ、クン……と河南の手首を嗅いだ。
うん、やっぱりいい。
「あう……やっめろよ、マジ恥ずかしい」
河南の頬が一気に赤くなった。
今日一番の可愛さだ。
照れて恥ずかしがる河南は可愛い。
覚えたぞ。
うん。
これからちょくちょく照れさせてやろう。
河南が反対の手首に自分でウッディーな香りを塗った。
悪くはないがやっぱり柑橘系の方が似合う。
「……買わないのか?」
「え、いいよこんなの。勿体ない」
気にはなるけど、買う踏ん切りはつかないといったところだろうか。
俺はさらに練り香を指に取って、河南の首筋に塗り込んだ。
「うへっっ!? なんだよっ!」
「太い血管の近くにつけるのが基本らしいぞ。気に入ってるんだろう?今日一日この香りをまとっていればいい」
再び香りを確認するため、首に顔を近づけてクン……と、嗅いでみた。
ビクビクっと河南が震える。
「やめろっっ!」
ああ、俺の息がくすぐったかったのか。
なかなかの感度の良さだな河南。
素朴な外見に似合わずスケベ。うんうん、男はそうじゃなくちゃな。
河南が眼鏡を見たいと言いだしたので、雑貨屋の並びの安くてオシャレなフレームが人気の店に向かった。
……なんだ?
急に河南のテンションが上がった。
眼鏡をかけていないくせに眼鏡好きなのか。
河南が俺にとっかえひっかえ眼鏡をかけさせては、コレが似合う、これも似合う……とはしゃいでいる。
全部似合っててどれもカッコいいって、どんだけ俺の事が好きなんだ河南。
眼鏡をかけるたびに河南が俺をカッコいいと褒めちぎる。
小学生の頃からずっと俺を見つめてきた河南だが、こんな素直な反応を見せたことは未だかつてない。
今日の初デートで河南の心が開き、俺への想いが止められなくなってしまったんだな。
いつも好意を顔に出さない河南が、目がハート状態で眼鏡を試着する俺を見ている。
なんとも気分がいい。
俺の格好良さに夢中過ぎて、自分が眼鏡を試着しようという気すら起きないようだが、どうせなら河南に似合う眼鏡も選んでやりたい。
……恐らく派手なのは嫌うだろう。
基本黒だけど、明るい水色を挟み込んでいて見る角度によって印象のかわるフレーム。素朴な河南に似合いそうだ。
俺が選んだ眼鏡を、河南が恐る恐るかける。
小動物のような河南が可愛い。
「ああ、やっぱり似合うな」
俺の言葉に河南が子供のように頬を染めた。
いちど試着すると火がついたのか、河南はアレもこれもと試着を始めた。
意外に派手な色で細いフレームの眼鏡も似合う。
「よく似合ってる」
顔を覗き込んで微笑むと、ツルを押し上げながら河南が満面の笑みを浮かべた。
だけどやっぱり、俺が最初に選んだ眼鏡が一番似合っていた。
そして河南自身もそれを気に入ってるようだ。
つまり、俺好みになりたいってことか河南。
可愛い過ぎるだろう河南。
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