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「河南、あーん」
「『あーん』じゃねぇよ。どうせ口開けたら手ぇ引くんだろっっ」
本気でケーキを見せつけてると思ってるらしい。発想が小学生だ。
ケーキを切り分けたフォークを河南に握らせる。
「ほら、河南、あーん」
今度は俺の言葉に合わせて素直にぱくりと食いついた。
そして、ニヘ……と、とろけた笑顔。
「美味いか?」
「ん!」
河南はそのまま当たり前のように俺のケーキにフォークを刺して切り分け、口に運ぼうとして『はっっ』っと俺を見た。
「いいよ食って。そのあと俺にもちょうだい?」
「ん!」
満面の笑みでケーキを頬張る。
「河南、あーん」
俺が口を開けると、あせりながらもケーキを取り分け口にいれてくれる。
「ん、美味い」
俺の笑顔に河南がまた、ニヘーっと頬を緩めた。
まったく、ラブラブだな。
『ケーキ、あーん』なんてバカップルなこと、これまで求められたことはあっても、自分から仕掛けたことはなかった。
そしてケーキを食べながら河南が『あの眼鏡も似合っていた』などとまた俺をほめる。
河南が俺を好きだというのは知っていたけど、ここまではっきりと想いをぶつけられたことはなかった。
誰にカッコいいと言われるよりも気持ちがいい。
フォークを放さない河南は、ケーキを食べてはとろけた笑みを見せ、思い出したように俺にケーキを差し出す。
結局俺は二口食べただけで、あっという間にケーキは無くなった。
無邪気だな河南。
そしてコーヒーを飲みながら、また俺のカッコ良さをほめる。
どの眼鏡が似合ってたとか、あの色がいいとか。あの形は斬新だけど俺なら違和感なかったとか。
ほめる比重がやや眼鏡寄りな気がしないでもないけど、頬を上気させて話す河南の俺への愛情は疑いようがない。
というか、俺への愛が止まらない。
どんだけ愛されてるって実感させれば気が済むんだ河南!
ラブラブタイムを満喫してカフェから出ると、外のイベントスペースでミニライブをやっていた。
取り立てて興味はなかったけど、こういうのもデートらしいだろうと思い、ステージからちょっと離れた観覧用のベンチに座る。
俺の隣に遠慮がちにちょこんと座った河南の息が白い。
ずっと屋内にいたから気づかなかったが、やっぱり外は寒い。
けど、冬の寒さなんか割り込む隙がないくらい俺たちは熱々だ。
隣に座る河南との間をつめて腰に手を回す。
河南のことだから恥ずかしがって逃げるかと思ったが、大人しく抱かれたままになっている。
さっきのカフェでラブラブして、今度は公衆の面前でイチャイチャ。
ミッション達成。
イェス!
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