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カフェで眼鏡の試着の感想を言っていたら、高遠のケーキをほとんど喰ってしまっていた。
どうしよう……。
美味しかった。
いや、そうじゃない。
でも、高遠は怒ってはなさそうだ。
ニコニコしてるし、話もよく聞いてくれる。
いつもみたいに上から目線でバカにしたりしない。
なんか、優しい。
いつもこんなだったらいいのに。
ほんと、高遠は優しいフリして人を小馬鹿にするんだよな。
あれは何年生だったか、学年が変わってすぐで、たまたま同じクラスにそれまで仲の良かった友だちが全然いないって時があった。
だからクラスになじもうとして、話のきっかけみたいなカンジでプリントを『オレがもってってやるよ!』って他の人の分もついでに持って行ってやったりとかしてたんだ。
そしたら、高遠が
「やめろよ、河南をパシリにするな」
とか言い出して。
パシリじゃねぇっつの!
あの、哀れみと蔑みの混じったような目!
自分で積極的にしてたことなのに、まわりもなんか『可哀想』みたいなカンジになって……。
いたたまれなかった。
高遠は『俺が世界の中心』みたいなトコがあって、実際いつでもクラスの中心メンバーの一人だし、ちょっと苦手意識を持っていた。
けど、このことがあってから高遠がマジで苦手になった。
オレが唯一高遠をバカにできたのはあのダサ眼鏡だけだったのに、それも卒業か。
イケメンおしゃれ眼鏡。
突っ込みどころが無くなってしまうのは悔しい。
でも、今日こうやって買い物につき合っただけで優しくしてくれるんだから、オレが選んだ眼鏡を高遠が身につけてれば、これからもずっと優しくしてくれるんじゃないかな……なんて思わなくもない。
カフェを出たらイベントスペースでミニライブをやっていた。
さりげにベンチに誘導される。
ボサノヴァ……?
よくわからない。
けど、冬の寒空の下には合わない気がする。
風にさらされながらこんなまったりした曲とか。
寒くて全然まったり出来ない。
……と思って固まってたら、高遠がすっと間をつめて腰のあたりに腕をまわしてきた。
……あ?
風よけになってくれてる?
ああ、なんかコイツがモテる理由がわかった気がする。
こんなふうにされたら女子はイチコロだろう。
かすかにふれる体が温かいし。
男のオレだってちょっとすり寄りたくなってしまう。
てか、寒いから……。
こっそり、こっそり、くっついてみた。
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