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河南が可愛い。
外にもかかわらず俺の温もりに安心して寝てしまうとか。
子供か?
しかも俺に抱きしめられてるのに気付いて顔を真っ赤にしていた。
河南はこれまでずっと遠くから俺を見つめているだけだった。
その目は真剣で、想いを胸に秘め、伝えたいことを伝えられずにいるというのは強く感じていた。
だからこそ、俺なりに河南の想いを大切にし、不用意に近づきすぎないように気をつけていたのだ。
だが、いざ俺から一歩踏み込んでみれば、こんなにもピュアで可愛い反応を返してくれるなんて。
こんなことなら、距離感など気にせず、もっと早くに一歩踏み出してみれば良かった。
……いや、今だからこそなのかもしれない。
積年の想いがあるからこそ、やっと互いに踏み出すことができたんだ。
さっき、首筋につけた練り香を嗅いだら『ゴクン』とツバを飲み込んでた。
河南はあきらかに俺にキスされるのを期待している。
けど、さすがにあんな公衆の面前でチュッチュできるほどあいつの神経は太くないだろう。
恐らく、俺に抱きしめられているだけでいっぱいいっぱいだったハズだ。
頬もめちゃくちゃ熱くなってたしな。
…………。
広場から移動して、河南が行きたがったのは、また眼鏡ショップ。
どんだけ眼鏡屋が好きなんだ……と、思っていたけど。
もしかして……。
いや、もしかしなくても、最初に眼鏡ショップに入った時に気付くべきだった。
河南は、踏んでしまった眼鏡の代わりに俺に眼鏡を選んでくれようとしているのか。
健気だな河南。
しかし……。
まあ、ここは俺の馴染みの店だしいいか……。
河南が嬉しそうに俺に眼鏡を選んでくれる。
ただそばにいるだけで、河南を幸せにしてあげられるという満足感……。
「これも悪くないけど、さっきすげえカッコイイの見ちゃったから見劣りするな」
俺の耳元に口を寄せ、悪戯な風にこそっと囁く。
「コレもいいけど、この価格だって思うと、どうせなら最初の店で安いの何本か買った方がよくね?」
さっきまで恥ずかしがってたくせに、河南の方から俺にくっついてくる。
可愛い。
もう俺と密着するのに慣れたのか。
拾ってきた子犬みたいだ。
河南は顔面構成が少し見劣りする。
しかし、不細工ではない。
『十人並み』とか『十把一絡げ』とか『一山いくら』とかそんな慣用句がよく似合う。
なので、余計に可愛い。
愛嬌のある雑種犬だ。
素朴で、懐かれるともう手放せない。
きっと、河南も一度懐いてしまうと、ちょっと離れただけで寂しくなってすぐに寄って来てしまう、そんなタイプだ。
カフェでの河南も、おやつを前にマテをされ、我慢出来ずに恨みがましい目で『うーうー』言い出す甘えたワンコのようだった。
可愛い。
ということは、すぐにシッポを振って飛びつく、河南が大好きなオモチャは眼鏡か?
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