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「眼鏡、どうする?最初の店に戻る?」
河南が頬を上気させて聞いてきた。
「あ、いや、大丈夫」
「え?じゃぁ、ここで買うのか?」
「んー。まあ、一旦出ようか?」
店を出て、ショッピングモールも出て、街中を歩いていると、だんだん河南の歩くペースが落ちて来た。
あきらかに不満顔だ。
理由はわかっている。
俺が眼鏡を買うと思っていたのに、向かう先はどう考えたって帰り道。
でもこの先に、眺めのいい、夜景の綺麗な公園があるんだぞ?
わかりやすいデートスポット。
んー……でも、この調子じゃ、公園に着いても不機嫌なままだろうな。
しょうがないので公園のそばにあるファーストフード店に立ち寄った。
頼んだのは、二人とも期間限定のハンバーガーのセット。
俺にとっては、これが夕食代わり。
多分、河南も同じだろう。
番号札を持って席に座る。
不機嫌なまま食べても美味しくないだろう。
ハンバーガーセットが来るまでに、ちょっと河南のご機嫌を取りたい。
けどその前に、隠し事でもなんでもないのに、まるで隠し事をしてるみたいになってしまった『俺の事情』を告白した方がよさそうだ。
「河南、ちょっと言わなきゃいけないことがあるんだ」
河南の短い髪をすくように頭を撫でる。
むくれた表情のままちょっと首をかしげる河南。
やっぱり可愛い。
「多分だけど、今日、俺が眼鏡買うって思ってたんだよな?」
「えっ!それって、やっぱ…………買わないのか!?」
河南が愕然とする。
俺が眼鏡を買わないって、ただそれだけなのに、天変地異でも起きたみたいな、信じられないって反応……。
いけない。可愛くって笑ってしまいそうだ。
「俺な、中学校に上がる時にマンションを引っ越したんだ」
「は………?」
急な話の転換に河南がきょとんとする。
……だから、可愛いって。
「それまでビルの谷間みたいなところに住んでたんだけど、今住んでるとこは高台でかなり眺めがいいんだよ」
「あー、知ってる。ちょっと高級な住宅街の端っこのマンション。すげぇイイとこ住んでるらしいな」
俺の家もチェック済か。
愛だな、河南。
「そう、海と山と、隣の隣の市どころか、天気が良ければ隣県の半島が見える」
「へぇ!!!!すげえな!」
たったこれくらいのことではしゃいで可愛いな、河南。
「ん、じゃ見に来てみるか?」
「うん!半島かぁ!え?高遠んちに行くのか?」
「ま、この時間はもう見えないから明日と明後日と、どっちなら予定空いてる?」
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