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トイレの手前の洗面所の鏡で、眼鏡をかけた自分の顔を確認する。
……眼鏡…う、うれしい。
でもこんなの貰うわけにはいかない。
眼鏡をかけた姿についニヤケてしまうオレを、鏡越しに高遠が満足げに見てる。
「やっぱり良く似合ってるだろ?すごく可愛いし、ちょっとオシャレな印象になった」
手放しにほめる高遠が、後ろからオレの腰に手を回して密着してきてきた。
高遠に背後からぐいっと押され、鏡に近づいた自分の顔を改めて見てみる。
鏡に写っているのは、高遠と頬を寄せあう、眼鏡をかけた自分。
………っていうか、頬が……温かいんだけど。
「お、おま……これ、オレどうしたらいいんだよ」
「うん、大切にしてくれ」
高遠が直接耳に言葉を吹き込んできた。
あうう……息が温かいっていうか、くすぐったい。
それに距離が近いよう……。
「河南?な、大切にしてくれてって言ってるだろ?」
「う、ウンッ!」
とりあえず頷いとく。
なんか、もう混乱して来た。
高遠がわけのわからないプレゼントをくれて、距離は近いし、声は甘いし、息は耳にかかってるし、ほっぺたくっつけてくるし……。
あう……密着した体をギュッて……。
ギュッて……もう、これは抱きしめられてると言っていいレベルじゃないか?
素敵なプレゼントを貰ってイケメンに抱きしめられるなんて、だから……だからもう、女子なら……完落ちのメロメロの……もう、心の中で『好きっっ!』って叫んじゃうレベルで、でもホントに口からうっかり出ちゃいそうで我慢我慢……って。
いや、女子じゃなくても、そうなっちゃうだろ。
はぁ……なんなんだ高遠……。
口説かれてるのかと勘違いするだろう高遠。
ていうか、口説いてるのか高遠。
いや、たとえそんな風に感じたとしても、高遠みたいなイケメンに『オレの事口説いてるのか』とか聞いたら、自意識過剰だとウチの学校の全女生徒から袋だたきにされそうな気がする。
怖い想像で自分を取り戻そうとしたのに、
「ちゅ……」
高遠が眼鏡にキスをした。
オレにじゃない。眼鏡にだ。
そう……眼鏡に……。
なのに、うう……力が抜ける。
なんだ、今のは。
黒魔術か。
だから力が抜けるのか。
ヘロヘロ状態のまま店内の席に戻ると、ヘロヘロしている間に高遠が席を片付け、ヘロヘロのままハンバーガーショップ近くの公園に連れていかれた。
ああ、夜風が冷たいから、少しは冷静になれるかもしれない。
まあ、つないだ手はちょっと汗ばんでるけどな!
てか、こいつ、当然みたいに手をつなぐんだな。
オレがヘロヘロだからつないだ方が安全だって判断したのかもしれないけど?
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