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港の見える街。
駅を出て、昔からある商店街を抜けると、私が新生活を始めた1Kの新築アパートに着く。
同棲していた男が失踪して、傷ついたりもしたけれど、住む場所も仕事も変えて、何とか楽しく毎日を過ごしている。
(もうすぐ着きますよ!)
駅の改札前で、さっき美容院で整えてもらった髪を手でクルクルいじっていたらスマホにメッセージが届いた。
職場の上司、拓也さんだ。
(改札前で待ってます)
メッセージを返して、そわそわして待つ。
「お待たせしました。行きましょうか。」
「はい!」
都内から、わざわざ私の住む街までやってきてくれた拓也さんに返事をし、見知った商店街を歩幅を会わせて歩く。
私は頭がいい人が好きだ。
拓也さんは仕事において、唯一、私を信じて任せてくれた。
そして、二人で大きな実績を残した。
私が仕事をやり易いよう環境を整えてくれて、道から逸れたら、さりげなく修正してくれた。
好きになるのに、そんなに時間はかからなかった。
充実した毎日が続くと思っていた矢先、滅多に人と昼食を取らない拓也さんからランチを誘われた。
天にも昇る気持ちでついていくと
「俺が来月で仕事を辞めるのは知ってますよね?」
という言葉。
「知らなかったです。。。」
頭が真っ白になって、何を喋ったのかも覚えていない。
だから、今日は勇気を出して、誘ってみたんだ。
もう会えなくなる。
そんなのは絶対に嫌だ。
会えなくなるなら、告白してしまえ。
会わなくなるんだから、恥は書き捨ててしまえ。
「取り合えず珈琲でも飲みましょうか?
煙草吸いたいし、まだ明るいから酒飲むには少し後ろめたい」
拓也さんにそう言われ、カフェに入ろうとするけれど、土曜の夕方は人が込み合って席も空いてない。
「ここに入りましょう」
言われたお店は、ずっと気になっていたけど高そうでお洒落な入ったことがないカフェ。
拓也さんに釣り合ったお店だ。
彼は着ている洋服も洗練され、顔も整っている。
反して私は、地味で何処にでもいる冴えないオンナ。
「相談事って何ですか?今、聞きますよ。」
あ~、相談があるって言ったから、拓也さんは時間を取ってくれたんだった。
「次のお店でもいいですか?」
「お酒が入ったほうがいいのかな?では、次のお店で聞きましょう。」
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