第1章

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「あなたは、その方をバカになんてしていなかったのでしょう?そんな先輩が一人いるというだけで、どれだけ救われたか。リストラのことだって、逆にあなたに知られたくなかったから、最後まで言わなかったんでしょうねえ。知ってしまえば、あなたは同情したでしょう?あなたにはね、職場を去るその時まで、きっと態度を変えて欲しくなかったのよ。」 ようやく、今になって告白できたのね、その方、とお婆さんが付け足した。 「あらあら、もうこんな時間!ごめんなさいねえ、私ったらあなたに長々と付き合わせてしまって!」 俺が言葉を探していると、お婆さんが店内の時計を見て大きな声を上げた。 俺も、自分の腕時計を見る。 確かに、そろそろ駅に向かわないといけない。 話を聞いてもらった礼に、ここの支払いをさせてほしいと頼むと、お婆さんは恐縮した様子で、それでもありがとうと言って俺に任せてくれた。
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