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「…ねぇ、何年間も二人きりでいたんでしょ、あいつと。その間ってやりまくり?」
「…セクハラ言動発見!」
耳が異音を拾った。何処だ?
「え、何?」
戸惑うフミノさんを横に、更に神経を研ぎ澄ませてさっきの下劣な声が何処から聞こえたのか改めて探る。
「あのタツルが夢中になったんだから、余程いいんだろうね。ねぇ、俺とちょっと試してみない?三年も経ったらそろそろ身体が疼いてつらい頃じゃ」
死ね変態!何言っとんじゃ。
声の場所を突き止めて俺がその場所へ必死で瞬間移動した途端、深夜の歩道橋に派手な音が響いた。
俺の目の前に二人がいた。仁王立ちのアキと、頬を張られて二、三歩吹っ飛ぶ男。
「…アキ!」
「アキちゃん」
俺と、ついてきたフミノさんが彼女に駆け寄る。男の方は知らん。死ねばいい。どうせ痛みもないんだし。
「アキ、手、大丈夫か」
我ながらそこか!と思うけど、あれだけ張り飛ばしたらアキの手の方だって相当な衝撃があっただろう。
「…手は使ってません」
アキが俯いてぼそりと呟く。あ、そうか。さすがタツルの愛弟子。
ふと彼女の足許を見て、俺は胸を突かれた。ぽたり、ぽたりと涙が落ちてくる。実態のない涙はアスファルトの地面に一旦しみこみ、すぐに消えてなくなっていく。
俺は夢中でアキを抱きしめた。アキが俺の胸に縋りつく。胸元があっという間に涙で湿っていく。
「タカヒロさん、さっきの言動、セクハラに当たると思うけど」
背後でフミノさんの落ち着き払った声がする。 低い位置(多分尻餅をついたままなんだろう)から、男のしらばくれた声が聞こえた。
「え、俺、なんか言ったかな。タツルさんが転生しちゃって残念だったね、みたいなことは言ったけど」
「テメェマジで」
思わず振り向いて喚く俺を手で制して、フミノさんは冷静に続ける。
「さっきの言動の一部始終、記録したから。音声と動画、上に送るわ。セクハラ判定されたら異動くらうけど、まぁ自業自得よね」
「え」
座り込んだままポカンとする男。俺もアキを胸に抱いたまま思わず彼女に尋ねる。
「そんなこと、できるんですか」
「ちょっとコツが要るけど。頭の中の記憶から音声と画像を取り出してパッケージするみたいな感じ。あんまり使うことないけどね。でも、あなたたちには必要な技術みたいね。今度教えてあげる」
フミノさんは頭の中で確認するように目を閉じた。
「…大丈夫。台詞もちゃんと入ってる」
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