期間限定の恋人(前篇)

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「あのくらい。…どってことなかったんです。少なくとも言葉の後半はね。今までも結構、言われ慣れてます。欲求不満じゃないの?とか、我慢できないんじゃない?とか」 目の前が一瞬真っ赤になる。…信じられない。どういう神経があったら、女の子にそんなこと言えるんだ。 「自分のことを言われるのはまだ…、いいんですけど。先輩と二人でいた時間のことを、あんな風に言われるのは」 俯いたアキの唇が微かに震えるのが見えた。絞り出すように小さな声をだす。 「汚されるみたいで。…本当に、それだけは、…止めてほしかった」 「…うん」 俺は頷いた。 …そんな台詞を聞いてしまったら、何だかもう彼女に触れられない。もう一度胸に抱きしめるつもりだったのに。 やっぱりまだ、アキの中には『先輩』しか入る余地はないんだな。 俺は彼女を再び引き寄せることもできずに、ただひたすらその髪を撫で続けていた。 アキは一晩眠ると思いのほかすぐに元気を取り戻した。 心配は心配だったが、まぁ原因となったあの男とまた鉢合わせることもないわけだし。と言うことで、結局は数日休んだだけで彼女は仕事に復帰することになった。 「フミノさん、本当にありがとうございました。その節は」 その日はアキはジュンタと一緒に掃除、つまり重要箇所のメンテナンス作業に出ていた。俺は詰所で顔を合わせたフミノさんに頭を下げる。 彼女は感じよくにっこり笑った。 「いいって。あの場にいたら誰でもする当然のことをしたまでよ。でもやっぱりあんまり酷いことを言われるまま無視してるだけよりも、少しは反撃した方がいいわね。今回のことが知れ渡るだけでも、多少ああいう言動は減ってくるわよ。みんな軽い気持ちで寄ってくるけど処分までは受けたくない筈だから」 「だったらいいんですけど」 俺は彼女の隣のデスクの椅子に座り、ため息をついた。 「三年も経つのに一向に減らないのは何でなんだろうと思ってはいたんですが。…そろそろ欲求不満なんじゃないか?なんて下卑た理由だったとは。あの連中、することしか考えてないんですかね?」 「まぁ本人たちがそれ無しではいられない人たちだからね。他人が三年も無しで我慢できる筈ないと思ってるんじゃないかな。でも、それだけが原因じゃないと思うよ」 フミノさんはデスクに肘をついて、頬を載せた。 「この三年間、ジュンタさんとチサトさん、大の男二人ががっちりガードしっ放しでしょう」
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