期間限定の恋人(前篇)

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ジュンタはしれっと答えた。 「まさか。そんなのいるわけないじゃん。生きてる人間からしたら効果も見えないのに、余計なコストかかっちゃうよ」 「だったら今の建築会社だって同じこと考えるだろ」 あたしは呆れて言った。この無責任な明るい適当さ、相変わらずのジュンタだ。 思いきり伸びをして、ため息をついて言葉を続ける。 「建ててた時もいろいろ問題があったって聞いてるけど、人が住み始めたらそれはそれで…。大勢の人間がいると、それも気に関わってくるみたいだね。全く、ダンプトラックを大人数で素手で動かすみたいな仕事だった…」 「チサトさん、つらそうですよ。眠った方がいいんじゃない?」 アキが心配そうに顔を覗き込んでくる。確かに眠い。こうして話していても、頭の三分の一くらいは既に寝ているみたいだ。 使役霊の仕事をするようになって、霊ってのはすごく眠るものなんだな、というのが実感されるようになった。普通の死霊だった時は好き勝手にふわふわ遊んでただ眠ったり起きたりしてるだけで、むしろ暇だから寝るという感じだったのだが、使役霊は仕事がある。そしてそれがどんなに肉体労働のように見えても霊には精神しかないから、活動の全てが即ち精神活動であるので、神経の疲労が半端ない。よって、仕事した分と同じくらいかそれ以上、眠って復旧を図るしかない。 「そうかぁ…、もう寝た方がいいかなぁ」 欠伸が出る。本当は久しぶりだし、もっとアキと話していたい。でも無理をして起きていても不自然だし、何よりアキを心配させるだろう。 「そうだな。もう寝ろよ。その分だと、一度寝たら五日は起きないだろうけど。その間アキは責任持って見てるから、気にするな。安心して休めよ」 「わたし大丈夫ですよ、そんな。子どもじゃないです」 ジュンタの台詞に軽くむくれて抗議するアキ。子どもじゃないからこそ心配なんだよ。 以前だったら計十日もジュンタにアキを任せるなんて考えられなかった。でも今はそんなことを言ってはいられない。仕事で手一杯な時もあるし、相対的にジュンタはだいぶマシ、ということがわかってきたからでもある。 あたしはジュンタの方を向き、軽く頭を下げた。 「…アキを頼むよ」 「任しとけって」 「二人とも、何なんですか。大体過保護なんですよ、ジュンタさんもチサトさんも」 そうでもないよ、アキ。 重く感じられる身体を引きずりつつ、自分の寝場所へ帰る。
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