期間限定の恋人(前篇)

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以前使っていたのと同じ、踊り場のデッドスペース。何もない殺風景なところだけど、狭くて落ち着く自分だけのシールドされた空間だ。 隣にアキがいてくれたらもっといいのに。 今日は疲れ過ぎていて、理性が飛んでるみたいだ。そう考えるとアキの前にいつまでもいなくてよかったかも。何を言い出すか自分でも自信がない。いつもは自制している想像力を駆使して、自分の隣に横たわって一緒に眠るアキを思い浮かべる。それだけで胸のうちが温かくなる気持ちになり、あたしは程なく眠りに落ちた。 タツルが転生して三年の月日が過ぎた。 アキは霊として働くことになり、あたしは運よく彼女と同じ霊に配置された。ジュンタは当然タツルと反対側を選択したので、結果タツル以外の三人が霊になったわけだ。 だったらやっぱりタツルがここはぐっと気合いで霊を選択してれば何の問題もなかったじゃないか!と思いはしたが、ことはそう単純でもなかったらしい。 タツルはとにかく転生しようとしないことで大変有名で、実に三百年以上も霊のままでいたという。基本、高級霊はある程度のレベルになると次は霊か転生か自由に選べるのだが、それにしても放っといたら永遠に転生しないのでは?と思われていたようで、かなり信憑性のある話として、次にもし霊を選択したらその次はついに強制的に転生させられる、と脅かされたという。 そもそも、選択の自由を得ると、どの霊もあまり転生を選択したがらないのが実情のようで、自由とはいえ限度があるとして見せしめ的にそういう処置が行なわる寸前だったということらしい。タツルとしては、アキのレベルが上がればもしかしたらこの次あたりはそろそろ彼女も選択の自由を得られるかもしれないのに、そこで自分が強制的に転生させられるのでは意味がないと判断したようだ。 それで、どっちにしろアキに選択の自由がないうちに、自分は転生を済ませておくことにしたというのが実際のところだったらしい。もしアキが転生だったとしたら現世で必ず会えるチャンスがあるわけだし。 ただ、残念ながらその期待は空振りに終わったが。アキは今、自分の記憶もないあどけない三歳のタツルを守護する仕事に就いている。 「先輩、やっぱ賢いですよねぇ。出来がいい子だよなぁ…。三歳児とは思えない」 恙なく成長していることを確認することくらいしか今はすることがないくらい順調なタツルの人生である。
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