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二ヶ月は学生気分に浸るのには充分過ぎた。
目指していた介護の資格も手にして、家族の心配もよそにディーサービスで働き始めた。
「おはようございます!」
何十年ぶりかの授業で学んだ知識を活かしたくて、テルミは自分から打ち解けようと試みた。
「お婆さん、おはようございます!」
出迎えたテルミが目撃したのは、ほとんど感情を出すことのない老婆だった。
「ウメ子と云います。少し痴呆も進んでいるので……」
ウメ子の息子だと言う太郎は、大きな背中を丸めながら、始終恐縮していた。
テルミは先輩のスタッフとウメ子を預かり、そそくさと帰って行く息子の背中を見送った。
ココにテルミの出来る事があるのかと尋ねられれば、今は分からないとしか言えない。
ただやり甲斐はある。テルミは自分に出来る事から頑張ろうと気を引き締めた。
「テルちゃんちょっと!」
「ハイ!」
「こっちに来て!」
「今すぐ!」
午前九時から午後三時まで、六時間ではあるが誰かのために働けることがこんなにも清々しいとは思わなかった。
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