第3章 生まれて来なければ良かったのに

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夏は一番キライだ。 藤川アオイは愛犬にエサを与えながら陽射しを見上げた。 中学で始まったイジメは、高校になっても変わる事はなく、結局、二年の春に中退した。 朝、職人をする父の弁当を作ると後は夕方まで暇だ。 愛犬の食べる姿を見つめて、「アンタは良いよなぁ!」と話し掛けた。 何で人間に生まれたのかと思う。 誰かと争い、誰かを妬み、誰かを貶すことで生きている実感に浸る。 アオイが見て来た人間は誰もみんな同じだった。 担任の先生は「もう少し頑張ろう」、クラスメートは「私の場合はね……」、父でさえも「いってくる」「ただいま」を繰り返した。 みんな逃げている。何かを怖れている。 「私だって……」 アオイは自分なんて生まれてこなければと思うのだった。
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