第1章

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「悠月様」 ドアの外から、いつもの声が聞こえた。 「はい」 決して部屋の中には入って来ない。 声しか知らない人。 「お茶の時間ですが、本日は何になさいますか?」 もうそんな時間? 読みかけの本に栞を挟みながら、少し考えて 「緑茶を」 そうお願いすると、かしこまりましたと返事が返ってきて、再び静寂が訪れる。 開かない窓。開かないドア。 囚われているはずなのに、不思議なこの空間が、どこか懐かしくて居心地がいい。 「待たせたな」 低い声で囁いて私を攫ってきたあの人に、また会えるのだろうか。
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