2人が本棚に入れています
本棚に追加
「悠月様」
ドアの外から、いつもの声が聞こえた。
「はい」
決して部屋の中には入って来ない。
声しか知らない人。
「お茶の時間ですが、本日は何になさいますか?」
もうそんな時間?
読みかけの本に栞を挟みながら、少し考えて
「緑茶を」
そうお願いすると、かしこまりましたと返事が返ってきて、再び静寂が訪れる。
開かない窓。開かないドア。
囚われているはずなのに、不思議なこの空間が、どこか懐かしくて居心地がいい。
「待たせたな」
低い声で囁いて私を攫ってきたあの人に、また会えるのだろうか。
最初のコメントを投稿しよう!