七月十八日正午

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 僕はぼんやり見ていた数学の教科書から顔を上げ、「彼女」――柚元(ゆずもと)の方を見やった。柚元は熱心に黒板の字を書き写している。  高校二年、同じクラスになった柚元に、僕は一目ぼれした。茶がかったセミロングの髪も、女子の談笑の輪で見せるその笑顔も、ちょっと不器用そうなしぐさの一つ一つも、僕は大好きだった。  だから、シャープペンシルが壊れたと困っていた時、神様から贈られたチャンスだと思った。修理のまねごとをしてやった時に向けられた感謝と憧憬に満ちた笑顔が忘れられない。  クラスメイトになって約三か月。もうすぐ夏休みだ。とっかかりもつかめたし、そろそろ遊びに誘ったりなんかしてもいいかもしれない。二度もトラブルを解決してあげたことで、僕には自信があった。
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