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大学に入ってから、始めての冬を迎えた。
炬燵に足を伸ばし、だらしなく表面の冷たい木の板に横顔を押し付けたままテレビに目を向ける。
テレビの音と、やかんの蒸気の音。
ぼうっとそれらを聞き流していると、玄関のベルが鳴った。
「はいはいはい」
裸足であるく床は冷たい。
ペタペタと足を鳴らしながら、鍵を開けた。
「…遅い」
扉を開いたそこには、不機嫌な顔。
その寒さに赤くなった鼻を見て、そしてそれ越しに見えた外は。
「うわっ!雪降ってんじゃん!すげえ!」
思わず彼の肩に両手を置き、身を乗り出して玄関から顔を出した。感嘆のため息をつけば、それは白くなって消える。
「おい」
と低い声が聞こえたかと思えば、頬に冷たい横顔が押し付けられ、耳を思い切り齧られた。
「いって!いって!!!バカやめろバカ!」
「うるせえ。お前が外なんか見てるから」
グイグイと暖かい部屋へと押し戻される。
仕方なく外を眺めるのを諦めて、彼を招きいれた。
「なんか食べる?一応そば出来てる」
「あったかけりゃ、なんでもいい」
「じゃ、年越しそばね」
そばをお椀によそると、じんわりと暖かさが手に染み渡る。
そして2人で炬燵に足を伸ばして、頬杖をついた。
「今年はどうでしたか?関谷さん」
「そういうあなたはどうなんですか?渡辺サン」
「…珍しくノッてきたな。年末マジック」
「気になってしょうがないからな」
今年も過ぎるのが早かった。
「なにが?」
「お前が」
「ん?」
「なかなか返事をくれないお前が気になってしょうがな、」
「あっ年明けた。あけましておめでとう」
「……」
今年も、きっとあっという間。
「…どうも、あけましておめでとう」
そのぶすくれた顔も、変わらず俺に向けられていますように。
おわり。
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