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そう思ったその時だった。
「ケンタ!!あかりくん困らせてんじゃないよ!!!」
ケンタ母である。
「なんだよ母ちゃんにはカンケーないだろ!!」
「アンタ、まだ『中学生になるのにいつまでもあっちゃんって呼んでたらカッコわりい』なんて言ってんの!バカタレ!」
「おい母ちゃん!!言うなよ!!!」
ケンは顔を真っ赤にして地団駄を踏んでいる。
やばい。これは緋李のやつ、カンカンに怒るのではないだろうか。おそるおそる隣に視線を向けた。
しかし、彼の顔は俺の予想を裏切っていて。
「なあんだ」
まるで手のかかる弟を見るような、柔らかな表情だった。
「ケン」
「なっ、なんだよ…」
ぶすくれてそっぽを向いたケンに、緋李はにんまりと笑った。
「おれ、中学生になっても周りを気にせずあっちゃんって呼ぶ男って、かっこいいと思うけどなあ」
「…!!」
あ、うまい。
ケンがピクリと身体を揺らして、緋李を見やった。
「…ほんと?」
「うん」
「ほんとのほんとに!?」
「もちろん」
「じゃあやーーめたっ!!!あっちゃん早く行こうぜ!!!」
拍子抜けするほど、ケンの名前呼びはあっけなく幕を閉じた。
緋李は満足そうにケンに笑いかける、彼を追いかけていった。
********
「ああ、そんなこともあったなあ」
大晦日、実家に帰ってきた緋李は懐かしそうに天井を見上げた。
高校生になった彼は、あの頃より少し大人になった。
「緋李、あのときすげえ怒ってたよなあ」
「えー?そうでしたっけ」
「そうだよ。俺、すごいヒヤヒヤしたんだからな?」
「うーん…あ、そうだね」
当の本人であるケンは、緋李にもたれかかってヨダレを垂らしながら寝ている。
良くも悪くも、時が経てば俺も、彼も、変わっていく。
それでも何か一つだけでも変わらないものがあるとするなら。
「ケンが、人に言われてあだ名で呼ぶのやめたなら、すっげえムカつくから『ケンタくん、ごきげんよう』とか言って困らせてやろうと思ってた気がする。こいつほんとバカ真っ盛り。バカバカ」
俺はそれを大事にしたいなあ。
「…相変わらずケンには、あたりが強いなあ」
かわいい幼馴染たちに、俺は困ったように微笑んだ。
よいお年を。
おわり。
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