0人が本棚に入れています
本棚に追加
クラス替え
廊下にできた人だかり。その向こうには、漫画雑誌を二冊並べたくらいの紙がクラスの数分貼られている。
進級時のクラス替え発表。人混みの遥か向こうに存在するそれを、俺は睨むような眼つきで眺めた。
元々内は僅か数年の新設校で、定員割れこそ起こさないが、全体的に一学年の人数は少ない。つまり、これまでと同じ顔触れと同じクラスになる確率は高いということだ。
それでも。
それでも、違うクラスになる確率だってない訳ではないのだ。
生まれて初めて感じるその不安。
そう、今までに、こんな気持ちになったことなんてない。中学からつるんでいて、高校で一緒のクラスになった親友連中相手でも、入学前は『一緒のクラスならいい』程度にしか思わなかった。
「お」
馴染の面々が俺を見つける。すぐに、
「俺ら、一組だったぞ。みんなまた一緒のクラスだ」
「…そっか。そりゃよかった」
不安のせいで足が止まったままの俺と違い、人混みに突入していた連中が心底嬉しげにそう語る。それによかったと応じながらも、俺の意識はいまだクラス割の方に向いたままだ。
「舞子」
ふと聞こえた名前に心臓が竦む。反射でそう呼ばれた人物を探すと、小さな人影が二つ、揃って人混みの前の方へ進んで行く。
いかにも親友同士といった様子の二人の女の子。その二人がクラス割りを見てはしゃぐ。どうやら一緒のクラスになれたらしい。
その片方…さっき舞子と呼ばれた女の子が俺の方を向いた。
「高崎くん。二年もクラス、一緒だね」
「え、あ、そうだっけ?」
「うん、そう」
とぼける俺とは裏腹に、相手はあっさりそう口にする。その上で。
「また一緒でよかった。二年になってもよろしくね」
そんなことまで言ってにっこり笑う。
一緒でよかった。それは、もしクラスが違ってたらどうしようなんて女々しく考えて、なかなか発表を見られなかった俺のセリフだよ。
「あ、うん。よろしく」
本当は万歳したいくらい嬉しいのに、そっけない返事しかできない。そんな不甲斐ない俺だけど、本当に、どうかこれからもよろしく。
クラス替え…完
最初のコメントを投稿しよう!