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伝票と一緒に携帯を握り、席を立つ。その瞬間、手の中で着信音が鳴った。
「あの、今、到着しました」
「そうですか。こちらはもう帰るトコですので、レジに預けて行きますね」
到着したのなら、わざわざどこかから電話をかけたりせず、すぐに店に入って来ればいいのに。
律儀と言えば聞こえはいいが、なんだか面倒な相手だ。これ以上は関わらず、携帯は店に渡してしまう方がいいだろう。
レジに件の携帯を置き、まずは会計を済ませる。さて次は、これのことを店員さんに頼んで…と思った瞬間、自分の鞄の中の携帯が鳴った。
こういう時の条件反射で、携帯を取り出しながら店の外に出る。同僚からだ。明日の仕事のための急ぎの確認に応じ、ものの二、三分で電話を切った。
そのタイミンクで店から店員さんが出てきた。
「お客さん、携帯忘れてますよ」
さっき、説明もせずにレジに置いてしまったあの携帯を、私の忘れ物だと思ったらしい。返そうと追いかけて来てくれたのだ。
それは自分の忘れ物ではなく、別の人の忘れ物だ…と説明しかけた時、道路から眩しい光がこちらに向くのを感じた。
一台の車が突っ込んでくる。店員さんがその場で固まる。
「危ない!」
自分でも驚く程機敏に体が動き、私は店員さんの腕を引っ張って己の側へと引き寄せた。
間一髪で避けた車が店に突っ込む。逃げた弾みで転んでしまったが、私にも店員さんにも特に怪我はない。
身を起こしながら車を見つめ、私と店員さんは二人して声もなく固まった。
今走ってきた車なのに、車内には、運転席はむろん、助手席や後部座席にも人の姿がなかったのだ。
誰もいない車が勝手に突っ込んで来た?
その不可解さ背に首を捻った瞬間、足元で着信音が鳴った。
この店に来て二度程聞いた特徴的な音。間違いなく、私が座席で見つけた携帯だ。今の騒ぎの弾みで店員さんが落としてしまったそれが道路上で鳴り響いている。
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