忘れ物携帯

1/3
4人が本棚に入れています
本棚に追加
/3ページ

忘れ物携帯

 会社帰りにファミレスに立ち寄った。いつもはコンビニで何か買って帰るのだが、時間が遅めなので家であれこれしたくないし、今すぐ食事にありつきたい空腹加減でもあった。  ガラガラなので好きな席に座り、オーダーを通す。後は食事が運ばれてくるのを待つだけだ。  そう思ってだらけた視界の隅に見知らぬ携帯電話が映った。  ソファタイプの座席の、背もたれとシートの隙間に埋まるように置いてある…いや、どう見ても忘れられている。  注文品が運ばれてくるまでいじってたけど、そこからは食事に没頭して、そのまま忘れていったんだろう。  食指が運ばれて来た時に店員さんに渡そう。そう思い、放置していたらいきなり着信音が鳴り響いた。  反射で手に取り、電話に出る。 「あの…どなたですか?」 「え、あ…たまたまこの携帯を拾った人間です。そちらは持ち主の方ですか?」 「はい、そうです! あの、そこの場所は…?」 「ファミレスです。駅前の。そこの席に座ったらこの携帯がありました」 「…ああ、そうでたか。よかった。今すぐそちらに向かっても構いませんか?」 「ええ、いいですよ」 「それじゃ、すぐに受け取りに向かいますので。ありがとうございました」  短いやりとりを終えて電話を切る。  他人事だが、失くし携帯がすぐ見つかってよかった。話の内容からしてじきに来るようだから、店員さん渡さずにこのまま置いておいてもいいだろう。  テーブルに見知らぬ誰かの携帯を置き、程なく運ばれてきた食事にありつく。だが、食べながら待っていても携帯の持ち主は現れない。  すぐにと言っていたけれど、案外遠くから電話をかけてきていたのだろうか。それとも途中で急用でもできて、すぐには来られなくなったとか?  理由が何であれ、俺に、ずっとその誰かを待っている義理はない。ここにいる間に相手が現れるなら手渡しするが、ダメなら店に預けて行くだけだ。  食事が終わったが誰も現れない。この携帯は、会計の際に店員さんに預けて行こう。
/3ページ

最初のコメントを投稿しよう!