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忘れ物携帯
会社帰りにファミレスに立ち寄った。いつもはコンビニで何か買って帰るのだが、時間が遅めなので家であれこれしたくないし、今すぐ食事にありつきたい空腹加減でもあった。
ガラガラなので好きな席に座り、オーダーを通す。後は食事が運ばれてくるのを待つだけだ。
そう思ってだらけた視界の隅に見知らぬ携帯電話が映った。
ソファタイプの座席の、背もたれとシートの隙間に埋まるように置いてある…いや、どう見ても忘れられている。
注文品が運ばれてくるまでいじってたけど、そこからは食事に没頭して、そのまま忘れていったんだろう。
食指が運ばれて来た時に店員さんに渡そう。そう思い、放置していたらいきなり着信音が鳴り響いた。
反射で手に取り、電話に出る。
「あの…どなたですか?」
「え、あ…たまたまこの携帯を拾った人間です。そちらは持ち主の方ですか?」
「はい、そうです! あの、そこの場所は…?」
「ファミレスです。駅前の。そこの席に座ったらこの携帯がありました」
「…ああ、そうでたか。よかった。今すぐそちらに向かっても構いませんか?」
「ええ、いいですよ」
「それじゃ、すぐに受け取りに向かいますので。ありがとうございました」
短いやりとりを終えて電話を切る。
他人事だが、失くし携帯がすぐ見つかってよかった。話の内容からしてじきに来るようだから、店員さん渡さずにこのまま置いておいてもいいだろう。
テーブルに見知らぬ誰かの携帯を置き、程なく運ばれてきた食事にありつく。だが、食べながら待っていても携帯の持ち主は現れない。
すぐにと言っていたけれど、案外遠くから電話をかけてきていたのだろうか。それとも途中で急用でもできて、すぐには来られなくなったとか?
理由が何であれ、俺に、ずっとその誰かを待っている義理はない。ここにいる間に相手が現れるなら手渡しするが、ダメなら店に預けて行くだけだ。
食事が終わったが誰も現れない。この携帯は、会計の際に店員さんに預けて行こう。
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