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ふと吹く風の勢いが思ったよりも強かったから、私は白いマフラーを巻き直して、きんと冷えた空気に肩をすくめた。
アーケードを抜けたら、停留所にバスがやってきていた。家までは歩いて帰れるけど、なんとなく楽をしたくて屋根の下に入って並んだ。
楽しそうに笑っている人も、隣で並びながら携帯電話で話す人も、煙のように呼吸の形を白に変えている。
はぁーっと息をつけば、私の温もりがもやもやと形になって消えた。
その向こうで、コンビニの前に停まっていた車に、綺麗な女の人が乗り込んでいる。
運転席の見覚えのある横顔は微笑んでいて……。
それ以上知りたくなくて、長いまばたきをした。
思い出した好きな人の香り。
どうしてこんなときに、くっきり香るんだろう。近くにいないのに、覚えているせいで切り離せない。
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