第1章

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 着物を着た愛子は膝に本を置き、和風の栞をつまでいた。 「栞って便利よね。好きな時に時間を止めていられるんだから。現実はそうもいかないわ」  物憂げな愛子の隣にいた僕は尋ねてみる。 「愛子は止めていたい時間ってあったの?」   「あなたと真夏の夜、神社の裏でキスをしたときかな」  そう言った割には、大して恥ずかしげな様子も笑顔もない。 「それって小学生の時の話なんだけど」 「なんで私たち別れたんだっけ?」 「僕が他の女の子と仲良くしてるって拗ねて、愛子が文学中毒に走ったんだよね」 「そうだったかしら」  絶対覚えてるくせに。 「そうだよ」  僕の断言に、愛子が思考を巡らす間。 「そろそろネガティブ志向の文学から離れて、明るい未来を動かしてみようかしら」  雪がしんしんと降るなか、愛子は僕に視線を合わせずに雪解けを示唆する。僕たちの物語にしおりはもういらなくなるのかな。
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