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着物を着た愛子は膝に本を置き、和風の栞をつまでいた。
「栞って便利よね。好きな時に時間を止めていられるんだから。現実はそうもいかないわ」
物憂げな愛子の隣にいた僕は尋ねてみる。
「愛子は止めていたい時間ってあったの?」
「あなたと真夏の夜、神社の裏でキスをしたときかな」
そう言った割には、大して恥ずかしげな様子も笑顔もない。
「それって小学生の時の話なんだけど」
「なんで私たち別れたんだっけ?」
「僕が他の女の子と仲良くしてるって拗ねて、愛子が文学中毒に走ったんだよね」
「そうだったかしら」
絶対覚えてるくせに。
「そうだよ」
僕の断言に、愛子が思考を巡らす間。
「そろそろネガティブ志向の文学から離れて、明るい未来を動かしてみようかしら」
雪がしんしんと降るなか、愛子は僕に視線を合わせずに雪解けを示唆する。僕たちの物語にしおりはもういらなくなるのかな。
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