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『あ!やだ、もうこんな時間。』 絵里さんが腕時計を見て、声を上げる。 「今から用事でも?」 『そういうわけじゃないのよ。旦那が帰ってくる時間なの~。』 やんなっちゃうわ、と財布から万札を取り出し肩を竦めた。 気色悪いものを思い出したかのように、苦笑いをする。 『そういうわけだから後は若いお二人で楽しんでね。お金はシンちゃんの分も払っておくから』 お札をテーブルに置けば、席を立った。 自分で払います――、とシンが断りを入れれば、絵里さんは首を振った。 『それくらいいいわよ。それより。隆太くん、手出しちゃ駄目よ~』 「だ…っ、絵里さん、だから…!」 慌ててそれを否定すれば、面白そうに絵里さんは高笑いして店を出て行った。 ……。 「……(はぁ)」 ドッと肩の力が抜ける。 歳上の絵里さんは、人を誂うことが大好きだ。 いつもまんまとペースを乱される。 ここだけの話、正直苦手。
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