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向きを再びカウンターに戻せば。シンと視線が交わった。 「(あ、)」 そうか。 絵里さんが居なくなったってことは、この男と二人っきりになる、ってことなのか。 「…」 『…』 店内が静まる。 この長方形の空間の中に、俺とシンの呼吸音が響く。 …なんか妙な空気だな。 いつもならこの場を上手くやりきるんだが。 今日の俺は、不調らしい。 「シン、さんでいいんですよね」 『ん?…ああ、名前ですか?』 「はい。どうお呼びしたらいいかな、と」 『……』 シンは黙り込んだ。そして、透明なレンズ越しに俺を見つめる。 まるで、何かを訴えかけているかのように。 「あ…の、」 『…シン。』 「え」 『シンでいいです。呼びやすいだろうし』 「分かりました。シンさんと呼ばせていただきます」
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