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「…、まだ酒が抜けてないんですよ。だから今日はもう帰ってゆっくりした方が――」
『――そうやって逃げようとするのは、卑怯だ。』
店内に戻ろうとした俺の腕を掴む。
無残にも、身体は引き止められた。
「、」
『酒の所為じゃない。ちゃんと俺の意思だから。』
強められた力。シャツの上からでもその骨ばった手の平に、直に触れられているかと錯覚する程、シンさんの体温が伝わる。
「一時の、…気の迷いですよ。」
ぽつりと、その寂れた路地裏の風にもみ消されるくらい、か細い弱々しい声が口から漏れる。
『だったら、何度も此処(ミセ)に足を運ばない。興味のない相手に時間を割くほど、俺は暇じゃないよ。望月さん。』
対して、背後から鼓膜を揺らすシンさんの声は、強い意思に裏打ちされたかのように太い響きを放つ。
感嘆符を打ったように、そして諭すように。低いテノールのそれは、耳を惑乱する。
「っ、」
だからその顔で言うんじゃねえよ…!
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