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『…な、』 シンさんの瞳が真ん丸に見開く。拾い上げた茶色のカーゴパンツに、手の力を込めたのが見てとれた。 「触れれば分かりますよ、男を知ってる身体じゃないってのは。」 依然、暗然とした表情のシンさんに〝ああ、やっぱり〟と被虐の快感に似た絶念感を味わい、氷のような嘲笑が口元を掠める。 「それでよく言えたもんですね。…俺と寝たい?こんなに身体震えさせてるのに?」 一歩近づけば、びくりと肩を揺らすシンさん。それを見、嘆息した。 「アンタのことは嫌いじゃないです。けど、揶揄われるのは嫌いだ」 触れようとした手を躊躇し、そのまま掛けてあるコートに手を伸ばした。チェスターコートを身に纏えばシンさんを背に、ドアへと向かう。 『望月さん…!』 焦りを含む声が後ろから引き止めるけれど、聞き流して歩みを止めない。 自動精算機に表示された額を投入して、ドアに手をかける。 「ここは自分が払っておきましたので。シンさんも早めに出て下さいね。」 『ちょっと待って下さい…!』 少し振り返ると、着替えに戸惑っているシンさんの姿が見えた。 「それでは、また」 重心を前に倒せば、安っぽいドアがギギと音を立て開いていった。
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