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「大して気にしてないだろ、瑛太さん」
〝うん。りゅーくんが俺ん家に来る時って、大抵アレだし。俺にとっても都合いいし。〟
「…瑛太さんは楽でいーわ」
〝そう?まあ待ってるね。早く来てよ?〟
「急かすなよ、分かってるから。じゃ、後で」
携帯をポケットにしまいこんで、ホテルの階段を下っていく。隅まで手入れされていないのが分かる、薄汚れた白い階段。
誰かを抱こうとする俺は、馬鹿なのかもしれない。
――――でも。
乱れたシンさんが身体を仰け反らせたとき。
見てしまった。
眼鏡がずれ、そこから覗けた面様(おもよう)を。
思わず、手を伸ばそうとした。
目の前の、紛れもない、その男に。
「(…いや。見間違いかも知れない。ただ似ているだけだ。ただ…。)」
でも、名前だって似てる。
こんな偶然…。
「(…クソが。根拠もないくせに。今更そうだとして、もう俺は…、鳩羽に振られてんだよ。)」
「(…そうだ。振られてんだ。どうせ鳩羽を想ってたって、報われないのは目に見えてるだろ。)」
瑛太さん、ごめん。
でも、まだアイツを忘れられない俺を許してくれ。
瑛太さんを利用してしまうクズを、許してくれ。
…もう吹っ切れたと思っていたのに。
「(そろそろ本気で、絶たないといけないかもしれないな)」
外は、雨が降り出したばかりだった。
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