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この12帖の理科準備室は、仕事を大義名分とした俺の秘密基地だ。
人が寄り付かない裏門側の3階角部屋、理科室の更に奥に位置している。
人体模型や標本が大上段に構え、危機感のない極細の字で『硫酸』などと書かれた瓶が、鍵付きの棚に所狭しと並べられている。
他にも埃を被った専門書や、安っぽいスチール机など、想像を絵に描いたような景色の中に、明らかに様子のおかしいアイテムが1つある。
ペルシャ猫がお気に召しそうな、赤い総革張りの一人掛けソファだ。
定年退職した前任の教員が愛用していたそうだが、最期まで添い遂げるほどの情はなかったらしい。
俺には有り難い置き土産だ。
アンティークな風貌は当然、学校という秩序からのけ者にされている。
しかしそんなところが愛らしくもあり、俺はそこそこ気に入っている。
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