俺たちの遺伝子は交わらない

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「さっき告白された」 「ほー」 煙草を持って重い腰を上げると、神奈木蜜子も机から下りる。 俺を飼い馴らしたいのかと思いきや、そうでもないらしい。俺がソファを離れればたちまち立場は逆転する。 白衣にすり寄る彼女を例えるならば、マンボウに吸い付くコバンザメが相応しい。 「今度はどんなやつだ?」 「同じクラスのメガネの人。私と同じK大理学部を目指してるって。でも頭悪そうだった」 「ひでぇな。お前には情がないのか」 「ある。先生への愛情が」 「いっちょ前に倒置法なんか使いやがって」 建て付けの悪い窓を開けると、ギシギシと年季の入った音が響く。 雪崩れ込む冷気に、彼女はカーディガンの袖を伸ばした。 煙草に火をつけると、煙は宵の空に刹那に消えた。 見つかれば即お縄の喫煙者にとっては、強い空っ風のアシストは大変有り難い。
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