109人が本棚に入れています
本棚に追加
「先生、さっきの休み時間、美術の原田と一緒に廊下を歩いてた。私以外の女と仲良くしないで」
神奈木蜜子は不器用だ。
俺の気を引こうと上目遣いを繰り出すのだが、目線を上げすぎて白目が剥き出している。いつか観たB級ホラー映画を思い出した。
天才は何かに突出している分、欠如も多い。
「上目遣いなんざ効かねーよ。どーせなら『吊り橋効果』くらい使ってみろよ」
「先生、話逸らした」
「原田先生は副担任なんだから仕方ねぇだろ。それにお前に俺を縛る権利はねぇ」
「欲求不満なら私を抱いて」
彼女は煙草を持たない俺の左手を掴むと、自らの胸に押し当てた。
唆られる質量はないが、うっかり指が動いてしまう前に振り払う。
「ど阿呆。ガキに興味はねぇよ」
神奈木蜜子は理解し難い。
綺麗にひと回り年の離れた、しょっぱいおっさんに御執心なのだ。
大体どうして、女性と一緒に歩いているだけで欲求不満の発想に結びつくのか。
最初のコメントを投稿しよう!