俺たちの遺伝子は交わらない

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「先生、イケナイニオイがする」 「エタノールか。5限が実験だったからな。つーか離れろや」 「私も同じニオイになりたい」 白衣に鼻をこすりつけて、彼女はもごもごと喋る。 「薬品のニオイがする女は嫌いだ」 細い肩を押し返すと、俺を見上げる薄い唇が微かに尖る。 こういう感情だけはたまに見せるのだから、彼女はやはりたちが悪い。 意図的でないから尚更厄介だ。 「もう帰れ。お天道様はとっくにおねんねだぞ」 彼女は特に渋る様子もなく、放り投げていたジャケットと鞄を拾うと、扉の前に立つ。 「先生、さようなら」 「気ぃつけて帰れよ」 愛想笑いの一つも浮かべることなく、彼女は部屋を後にする。 途端に疲労感に見舞われた俺は、仕切り直しに煙草を咥えて窓へ向かった。 約半年前、神奈木蜜子に「一目惚れした」と突然襲われそうになった春を思い出す。 あの頃に比べると、随分と日脚が伸びた。 煙草を持つ手がかじかんで少し痛い。
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