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プロローグ
夜。
わたしは街の中心にある、巨大なツリーの前で佇んでいる。有名な待ち合わせ場所らしく、わたしのほかにも大切な人を待つ人たちが十名ほど立っていた。
そんななか、わたしは自分の顔の前で手を擦り合わせていた。手に吹きかけた息は真っ白で、いっぽう、わたしの手は真っ赤になってます。紅白でめでたいですねー。
なんていってる場合ではなく、ほんとうにちょっともう、寒い。
そう、手袋を忘れたんですよ……。
そのことに気づいたのは部屋を出て五分ほど経ったころで、引き返したら待ち合わせに間に合わなくなってしまうために、仕方なくそのまま来たんです。
「手……ああ、手ぇ……」
悲哀か愁嘆か。わたしはそんなひとりごとを漏らします。頭にはニット帽、首にはマフラー、厚手のコートに、今日はスカートではなく防寒仕様のパンツルックなのにも関わらず、素手です。
なんですかこれ。
なんか恥ずかしくもなってきた。周りの視線が痛い。……さすがにそれは自意識過剰というものですね。
みなさん、わたしなんか見てるわけもなく、視線を遠くのほうにさまよわせてるかたがほとんどです。そんななかで、ふと上空を見上げる女の人がいました。
わたしもならって空を見上げます。
そこには星がひとつもないどんよりとしたくもり空があるばかり。彼女へと視線を戻します。
ふだんなら不安と憂鬱を呼び起こすような、その曇天を見上げる彼女の顔にあるのは、不安でも憂鬱でもなくて。
期待でした。
わたしもたぶん、同じような表情をしていたに違いありません。
そう、
今日は十二月二十四日。
クリスマスイヴなのです。
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