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外は一面が純白に包まれている。
裸になった木々に、ふわりふわりと白い雪が積もっていく。
読んでいた本をぱたりと閉じ、ぼんやりとそれを眺めていた。
A「きっと外は凍えるような寒さね。」
あの人がくれた本を、そっと撫でる。
茶色い表紙には、見慣れない異国の文字。
彼が旅立ってから、これを傍に置かない日はなかった。
内容なんて分からない。
だけれど、一字一句、目を凝らして文字を辿る。
帰ってきたら、この本のあらすじを解説すると約束をしてくれたのだ。
いつ戻ってくるかは分からない。
だからこそ、これを傍に置いておきたい。
B『お嬢様、お嬢様…!!!』
使用人の一人が、血相を変えて駆け込んできた。
息を絶え絶えにして、酷く青白い顔をしている。
A「どうしたのよ、そんなに慌てて。また何かしでかしたの?」
その様子にふふ、と息を漏らす。
しかし。
使用人は、私の笑みにますます表情を暗くした。
その瞳が、少し潤んでいるのに気がついたのは、彼女の言葉を聞いた直後だった。
B『先ほどあの方の御両親からご連絡がありまして。その、……あ、あの方が。…っ、…。異国で、……お亡くなりになられたそうです。』
途端、使用人は透明な涙を瞳から溢れさせた。
それが頬に伝わり、ぽとりと落ちていく。
―――今。何と言ったの?
目の先が暗闇に包まれ、彼女の啜り泣く音も聞こえなくなる。
ゴトンッ、と持っていた本が床に叩きつけられる。
そんな、……嘘でしょう?
…嘘だと言ってくださいな。
だって、私と約束をしたわ。
この本を読んで、そして、あの人が裏表紙に残した
―I want to spend the rest of my life with you.――
この言葉の意味を教えてくださるって。
ねえ。言ったじゃないですか。
その太く逞しい腕で私を抱擁しながら。
〝必ず帰る〟と言ってくださったじゃないですか。
しかし。もう彼の透き通った声は、耳に響くことはない。
〝もし私がお前を守れなくなっても。決して泣くなよ。
花のように微笑むこそ、私の愛しているお前なのだから。〟
彼が旅立ちの日に告げた言葉を思い出す。
…もしや。貴方はこうなることが――…
私は、首を横に振った。
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