一章 人形は、かくれんぼしましょう

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「人形らしいデフォルメはありますけどね」と、蘭さん。 そう。そこのとこ。デフォルメのかげんが、すごく微妙なバランスで成り立ってる。 どの子の顔にも個性があって、一体ずつ違う。 「この子たち、一体ずつに人間のモデルがいるってこと?」 三村くんは、うなずいた。 「モデルの写真、見ると、よう似てんで。ほんで、モデルが死ぬやろ。あの人の人形はモデルの魂、吸いとるらしいって、ウワサになってんや」 やなウワサだなあ。 「でも、モデルが死んだと言っても、ぐうぜんでしょう? 世の中には若くして死ぬ人だっている」 蘭さんは残念そうに言った。 ほんとは悪魔に存在してほしいんだろうな。 が、三村くんは、あいかわらず神妙な顔をくずさない。 「はっきり言えるだけで二人、死んどるんや。二人とも蛭間さんの彼女やで」 あっ、うっ……二人とも作家に、きわめて近い存在か。 そうなると、ただのぐうぜんというより、なにかしらの、よからぬ力を感じる。 悪魔……とか? 僕は、こわごわ聞いてみた。 「それって、ほんとに死んでるの? おもしろがって、ネットなんかで広がったデマなんじゃ?」 三村くんは首をふる。 「それが、ほんまなんや。蛭間さんがイギリス行ったんは、そのせいや。傷心旅行っちゅうわけやな。 ほんで、いっきにウワサ、ひろまった。悪魔に魂、売ったんやって」 ぞぞォッ。怖いよ。魂を吸う人形。呪い。悪魔……。 僕はビクビクなのに、蘭さんの嬉しそうなこと。 「いいですね! 呪いのウワサのある人形作家。次々に死にゆく美女は、ぐうぜんか? あるいは悪魔の所業? 会ってみたいなあ。その人」 ああ、また、そういうことに首をつっこむ……。 「やめたほうがいいんじゃない? ほら、蘭さん、しつこいって、さっき言ってた」 「ストーカーじゃないなら、いいんです。モデルになるかどうかは別として。会ってみるくらいはいいかな」 ダメだ。蘭さんは好物のホラー話に目がくらんでる。 聞く耳持ってくれる、ふんいきじゃない。 また、三村くんが、のせるしさ。 「ほな、これから行こか。案内したるで」 「行きましょう」 三村くんが、内心、ガッツポーズとるのが、目に見えるようだ。
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