一章 人形は、かくれんぼしましょう

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今井さんはポップアートを実写にしたみたい。服もメイクもポップアートの年齢不詳さん。金髪だし。 キツネ目のチャラ男が立川さん。 「こっちは妹の愛波です」 ムフフ。まなみさんか。 吸血鬼顔の蛭間さんの妹ってのがウソみたいだ。 いいですね。美人と同席。夏の恋の始まりかな? 蛭間さんは立川さんが差しだす手を自分の体でブロックした。 今度は年配の夫婦を紹介した。 「こちらは私が昔、お世話になっていた人形店の京塚さんご夫妻。私が無名だったころ、人形を最初に置いてくださったのは、京塚さんです」 なるほど。恩人ですか。 蘭さんが口をひらいた。 「京塚人形店と言えば、老舗中の老舗じゃないですか。お内裏に、ひな人形をおさめたこともあるんですよね? 僕の五月人形も、鯉のぼりも、京塚さんのお店で求めたんですよ」 さすが。蘭さんの実家はお公家さん。 所蔵品の数々が博物館の特別展覧会に出品されるようなお家柄だ。 うちの鯉のぼりなんてね。季節物のお菓子についてくるオマケ。十五センチくらいの鯉ね。 猛が青で、僕が……ピンク。 「へえ。おぼえとります。お兄はんのときも、うちを使てくれはりましたな。ごひいきにしてもろて、おおきに」 老舗の大旦那は美しい京言葉。 「で、こちらが、今現在、おせわになってるアンティークショップのオーナー。細野さんです。私の人形の委託販売をたのんでいます」 やり手そうな女社長は片手をさしだした。 「よろしく」 どんよくそうな目をしてるのが気になる。けど、美人ではある。 いちおう、この人の手は蘭さんも形式的に、にぎりかえした。 それにしても、新旧の恩人そろいぶみか。いったい、なんの集まりだ? で、次がいよいよ、僕らの紹介。 と言っても、僕らは蘭さんの付属品。その他大勢ってやつ。 「こちらは以前から、モデルをたのんでいた九重蘭さん。職業はミステリー作家でしたよね。 それと、友人のみなさんです」 ほらね。名前さえ省略だよ。 といっても、そうだ。僕ら、まだ蛭間さんに名乗ってなかった。 僕は急に図々しく押しかけたことに、しゅうち心を感じた。 けど、兄ちゃんは堂々としたもんだ。 「東堂猛です。こっちは弟の薫(ありがとー。たけるぅ)。とつぜん、おじゃまして、すみません」 まるで、ジャマとも、すいませんとも思ってない口調で自己紹介。
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