一章 人形は、かくれんぼしましょう

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蛭間さんこだわりの紅茶とか、紅茶の正しいいれかたとか、相づち打ちながら聞いてただけだ。 ま、いきなり、『彼氏いるんですか?』とは聞けないよね。 「じゃあ、これ、はこんでください」 高そうな銀の盆に載せ、ティーセットをはこぶ。 居間では、まだ蘭さんを中心に団子状態。 蘭さんが言った。 「ところで、蛭間さん。今日はなんの集まりですか?」 「愛波の誕生日なんです。昨日は立川の。あさっては京塚さんの奥さんの。 だから、いつも、この時期、集まってパーティをひらくんですよ」 がーん。僕ら、年に一度のバースデーをジャマしちゃったのか。罪深い。 「三人とも、かに座なんだよねえ」 年齢不詳さん(今井さんだっけ?)が言う。 蘭さんが美貌だけでなく、頭脳も優れてるところを示して、雑学をひろうする。 「双子座ですね。蛇つかい座を入れると」 「蛇?」 「星座占いで使われるのは黄道十二宮ですね。女性なら、たいてい十二宮言えるんじゃないかな。 けど、現代の天文学に照らしあわせると、正確には黄道上の星座は十三宮なんだそうです。 蛇つかい座がサソリ座と射手座のあいだに入る。 で、これで計算すると、黄道十二宮のかに座の人は、双子座になるんですよね」 ふうん。知らなかった。 「あ、ほなら、うち、蛇つかい座になるんとちゃう? サソリ座やし」 藤江さんが首をかしげながら言う。 「サソリなら、違いますよ。僕は蛇つかい座になっちゃうけど。 十一月三十日から十二月十七日までが、蛇つかい座になるんじゃなかったかな」 蛇つかい…蘭さんっぽいなあ。 ははは、と笑ったのは、立川さん。 「じゃあ、ケンと京塚さんが蛇つかい座だな。ひなたもだろ?」 立川さんの視線から、今井さんのこととわかる。下の名前が、ひなたさんね。 「へえ。ほな、おれも蛇つかいやなあ。蛭間さんと同じなんや」と、三村くん。 ああ、そういえば、蘭さんと誕生日、近かったっけ。たしか、十二月七日。 それで、星座占いの話題にわきつつ、紅茶を飲んだ。 蛇つかい座で仲間意識を燃やしたのか、三村くんはティータイム後も攻める。 「蛭間さん、これ、見てください! 自分、こういうん、ビスクで作りたいんです」 紙袋から次々、出てくる三体の人形。僕らをモデルにした例のやつだ。 一般人なら「へえ、すごーい。うまーい」で終わるとこだ。
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