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でも、なんか妙に品評会めいて、みんなが真剣に人形をながめる。
あのチャラそうな立川さんさえ、表裏ひっくりかえして、じっくり見分した。
「いいね。君、これで食えるよ。よければ今度、うちの型、作らないか?」
「型でっか。立川さん、オモチャ屋さんの関係すか?」
立川さんはポケットに手をつっこんで、顔をしかめる。
「そうか。今日は名刺、ないんだっけ」
なんと、立川さんは、言えば誰もが知ってる大手玩具メーカーの課長さんだった。意外。人は見かけによらない。
企画開発部だかなんだか。要するに製品化する前の新しいオモチャを考案するのが仕事。
人気アニメの高額フィギュア製作を三村くんに持ちかけていた。
型ってやつを一回作るだけで、かなりスゴイ額の報酬だ。
でも、三村くんは、渋い顔。
「すんません。おれ、やっぱ、自分のもんが作りたいんですわ。型やと他人の創作に乗っかるだけやないですか」
「でも、君、これだと、蛭間の模倣だよ。個性がない」
おっ。立川さん、きつい。
三村くんは頭をかいた。
「それは、自分でも、わかっとるんすけどね」
あ、また自分探しに行ってしまうのか?
でも、そのとき、年齢不詳の、ひなたさんが口をはさんだ。
「あたしは好きだよ。これ。ケンさんのより、いい感じにポップ。モデルがいいせいかもだけど。この子、カワイイッ」
はいはい。蘭さんドールね。そりゃ可愛いですよ。モデルが比類ない美青年ですから。
ところがだ。一人、紅茶のおかわりを飲む僕の背中に、思いがけない言葉が聞こえてくる。
「このムニュッとした口! カワイイッ」
むにゅ? 蘭さんには当てはまらない形容詞。
ちらりと、ふりかえる。と、今井さんがダッコしてるのは、案の定、僕人形だ。
今井さんは、みんなが見てる前で、僕人形の服をぺろりとめくった。
ぎゃッ。なんか、はずかしいから、やめて。
「さっきから気になってたんだけど、この子の背中、なんか、ついてない?」
「ちょい、貸してもらえまっか?」
三村くん、僕人形を手にとると、いきなりTシャツをぬがせた。な、なにするんだ!
「あ、羽だあ。カワイイッ」
「ほんまは服に穴あけたろ、思うたんすけどね。でも、持ち運びで折れたら、かなんし。ま、収納式天使っちゅうことで」
収納式天使って、なんだ?
にわかに気になって、僕はみんなの輪に、かけよった。
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