一章 人形は、かくれんぼしましょう

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背のびして、のぞきこむ。兄ちゃん、三村くん、ジャマ。これ見よがしにノッポなんだから。 三村くんの手元が見えた。 僕の背中には、折りたたみ式の羽がついてる! かたっぽだけどね。半分、天使。 「なんで、かたっぽ?」 兄ちゃんの頭ごしに、たずねる。 三村くんはニヤッと笑った。 今度は猛人形の服をむしりとる。兄弟でストリップですな。 猛のパーカーの下にも可動式の羽がついてた。やっぱり、かたっぽね。向きが僕のと反対だ。 「ほら、これで両翼や」 人形は二体で一対のツバサを持っていた。肩をくんで、助けあって飛べってことですか? 蘭さん、大ウケだ。 「ふつう、魂の片翼って、夫婦のことでしょう? 比翼の鳥。連理の枝」 「ええやんか。こいつら、近親ソーカンかっちゅうくらい、仲ええし。これの正しい鑑賞法は、こうなんや」 三村くんは、僕と猛の人形をだんろの上に、すわらせた。それで初めて気がついた。 人形の僕と猛は、ならべて座らせると、ちょうど、視線が、たがいを見つめあうようにできている。 うむ。バカっぽく、ななめ上見て笑ってるのは、そのせいだったのか。僕ドール。 ちょっと安心した。 「うん。いいねえ。兄弟愛、出てる。出てる」 「ほほえましい」 「クリスマスのショーウィンドウに似合いそうだね」 「たしかに、これはビスクドールで作ったほうがいいね。コンセプトに合ってる」 蛭間さんにも、ほめられて、三村くんは、ここぞと、もみ手をした。 「ちゅうことで、弟子にしてくれませんか? 蛭間さん」 人形作家は苦笑いした。 「君に創作意欲と才能があることは認める。 だが、ビスクドールの製作技術を身につけたいだけなら、ほかの人形工房をたずねればいい」 「蛭間さんのテクを盗みたいんですわ」 あ……あつかましい。 しかし、なぜか蛭間さんの友人たちは好意的だ。 「盗め。盗め。芸は盗んでなんぼだよ」 「しょうがないなあ。まあ、気が変わったら、型の件、連絡してくれよ」 「ごめんな。うち、ベア専門やさかい、なんも教えてあげられへん」 藤江さんはテディベア製作か。そんなイメージだ。 「あの、もしかして、蛭間さんのご友人って、みんな人形作家さんですか?」 よこから入って、聞いてみる。 立川さんが肩をすくめた。 「あっ、すいません。立川さん以外のかたは……」
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