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蒼人が自分の才能に気づいたのは、小学二年のときだった。
図工の時間だ。
紙ねんどで、となりの席のお友だちを作りましょうと、担任の先生が言った。
蒼人のとなりは近所の仲よし。
保育園から、いっしょの、蘭蘭ちゃんだ。
蘭が二つで、らら。
いま思うと、パンダっぽい名前だが、目のパッチリした、お人形みたいな女の子だった。
パンダっぽいところと言えば、肌の白さと黒髪の配色くらい。
「うちのこと、かわいく作ってくれな、あかんよ」
「う……うん」
大きくなったら、この子と結婚したいなと思っていた女の子だ。
そう言われれば、がんばらないわけにはいかなかった。
小さいころから手先は器用だった。それにしても、できあがったものは、われながら上出来だった。
ほかの子たちの作品といえば、どれもこれも、バロック真珠みたいな頭に、円筒の胴体。棒状の手足がついていれば御の字。
ましてや顔なんて、友だちに似せる以前の問題だ。
そもそも小二の子どもには、土台、ムリな課題だった。
そんななかで、蒼人の作った蘭蘭ちゃん人形は傑出していた。
目鼻の数があってるとか、バランスが整っている以上の出来栄え。
ちゃんと、蘭蘭ちゃんに見えた。
「わあっ、すっごーい! めっちゃカワイイやん」
「ほんまや。ええなあ。蘭蘭ちゃん」
女の子たちが集まって、さわぎだす。その中心で、蘭蘭ちゃんは得意満面だ。
「ねえ、そうちゃん。ここにリボンつけて」
「うん」
頭にリボンをつけると、蘭蘭ちゃんは笑った。
みごとな三幕物の歌劇をひろうし、かっさいをあびる、おかかえ作曲家を見る女王のように。
「そうちゃん。この人形、うちに、ちょうだい」
「うん。じゃあ、学期末に」
「指切りげんまん」
けれど、その約束が守られることはなかった。
蘭蘭ちゃんは冬休みが来る前に、天国へ行ってしまったから……。
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