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教えてくれたのは、蘭さんだ。
「ああ、かーくん。さっきまで、いなかったんですよね。
みなさん、学生時代の友人っておっしゃってたでしょう?
それって、東京の造形芸術アカデミーなんだそうです。
三村くんの先輩たちですよ」
それで、三村くんに優しいのか。
「あたしはね。ラグドール。ぬいぐるみだよー。ホウタイとか、眼帯とか、血のりとか。手術跡とか。ちょっと痛い感じの作ってるー」と、ひなたさん。
そんなの、ダッコしたがる人がいるのか。世の中って、わからない。
「ケンさんが一番、出世頭だけどねえ。あたしたち、ぐうぜん、三人とも人形作家になったんだあ」
ふうん。ぐうぜんか。
たしかに、ベアなら需要は高そうだ。手作りベアの世界大会とかあるらしいし。
「いいですね。学生時代の友人が同じ職業だと。いろいろ話もあうだろうし。ほかにもアーティストの友達いますか?」
友人ご一同は、なぜか瞬間、口をつぐんだ。
なんだろなあ。空気が緊張したような。
そこへ、愛波さんの声がした。
「みなさん、ケーキ食べませんか?」
「あ、いいね」
「食べたい。食べたい。甘いもの、食べたい」
愛波さんが出ていき、しばらくして、すごく立派なホールのケーキを運んできた。
どう見ても、高級洋菓子店のそれ。
あっさり切りわけられて、テーブルにならべられる。
いいのか? ほんとに、それでいいのか? 誕生ケーキ。
ハッピバースデーツーユーは? ロウソク点火アンド吹き消しは? クラッカーは?
うーん、うちとは、えらい違いだ。
まあ、主役の蛭間さん以下、だれも何も言わないし、いっか。
洋酒のきいたケーキをたんのうしたあと。
女社長、細野さんが言いだした。
「それで、蛭間さん。新作は?」
新作? そういえば、そんなこと、誰か言ってたっけ。
蘭さんのこと、蛭間さんの新作だと思ったとかなんとか。
「ええ。持ってきましょう」
蛭間さんは一人で居間を出ていく。奥の階段のほうへ歩いていった。
「二階に兄のアトリエと寝室があるんです」
愛波さんが親切にも説明してくれた。いい人だ。
ところが、直後にバタバタと階段をかけおりてくる足音がする。
蛭間さんが走ってきた。
「ない!」
「ない?」
僕らはオウムのモノマネだ。
「ないって、まさか……」
「人形がない」
みんなは顔を見あわせた。
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