一章 人形は、かくれんぼしましょう

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教えてくれたのは、蘭さんだ。 「ああ、かーくん。さっきまで、いなかったんですよね。 みなさん、学生時代の友人っておっしゃってたでしょう? それって、東京の造形芸術アカデミーなんだそうです。 三村くんの先輩たちですよ」 それで、三村くんに優しいのか。 「あたしはね。ラグドール。ぬいぐるみだよー。ホウタイとか、眼帯とか、血のりとか。手術跡とか。ちょっと痛い感じの作ってるー」と、ひなたさん。 そんなの、ダッコしたがる人がいるのか。世の中って、わからない。 「ケンさんが一番、出世頭だけどねえ。あたしたち、ぐうぜん、三人とも人形作家になったんだあ」 ふうん。ぐうぜんか。 たしかに、ベアなら需要は高そうだ。手作りベアの世界大会とかあるらしいし。 「いいですね。学生時代の友人が同じ職業だと。いろいろ話もあうだろうし。ほかにもアーティストの友達いますか?」 友人ご一同は、なぜか瞬間、口をつぐんだ。 なんだろなあ。空気が緊張したような。 そこへ、愛波さんの声がした。 「みなさん、ケーキ食べませんか?」 「あ、いいね」 「食べたい。食べたい。甘いもの、食べたい」 愛波さんが出ていき、しばらくして、すごく立派なホールのケーキを運んできた。 どう見ても、高級洋菓子店のそれ。 あっさり切りわけられて、テーブルにならべられる。 いいのか? ほんとに、それでいいのか? 誕生ケーキ。 ハッピバースデーツーユーは? ロウソク点火アンド吹き消しは? クラッカーは? うーん、うちとは、えらい違いだ。 まあ、主役の蛭間さん以下、だれも何も言わないし、いっか。 洋酒のきいたケーキをたんのうしたあと。 女社長、細野さんが言いだした。 「それで、蛭間さん。新作は?」 新作? そういえば、そんなこと、誰か言ってたっけ。 蘭さんのこと、蛭間さんの新作だと思ったとかなんとか。 「ええ。持ってきましょう」 蛭間さんは一人で居間を出ていく。奥の階段のほうへ歩いていった。 「二階に兄のアトリエと寝室があるんです」 愛波さんが親切にも説明してくれた。いい人だ。 ところが、直後にバタバタと階段をかけおりてくる足音がする。 蛭間さんが走ってきた。 「ない!」 「ない?」 僕らはオウムのモノマネだ。 「ないって、まさか……」 「人形がない」 みんなは顔を見あわせた。
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