一章 人形は、かくれんぼしましょう

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細野さんが青ざめる。やっぱり、商売がらみだから。 「保管場所は、どこ?」 「いつもの戸棚です。アトリエの。カギはかけてあった」 「カギがかかってたのに、なくなったの?」 「そうです。カギがあけられ、人形がなくなってる」 みんなは、たがいの顔をうかがう。 「盗まれたってこと?」 ささやくように、細野さんが言うと、今度は立川さんが、 「思い違いじゃないのか? 自分で場所を移したとか」 蛭間さんは首をふる。 「人形は完成直後に棚に入れて、動かしてない。 カギをかけたのは昨日だが、今朝も、ちゃんと確認した。そのときは入ってたんだ」 みんなが、ちんもくする。 すると、猛が言った。 「そのアトリエっていうの、見せてもらっていいですか?」 まがりなりにも探偵だもんね。 「そうよ。たしかめてみましょう。もしかしたら、誰かが見て、別のとこに置いただけかもしれない」 細野さんが率先して二階に上がろうとする。 猛が、とどめた。 「待ってください。ほんとに盗難事件なら、警察に届けなきゃいけない。全員で上がると、みんなの指紋がついてしまう。警察の捜査に、さしさわりが出ます」 うむ。探偵。 「ああ、それなら掃除用の手ぶくろがあります。みんな、あれをつければいいんじゃないですか?」 愛波さんが持ってきたのは、五十枚入りの薄いビニールの手ぶくろ。 猛は愛波さんの機転を渋面で受けいれた。 「ほんとは髪の毛とかの遺留物もあるから、大勢で行かないほうがいいんだが。まあ、そこは蛭間さんの判断に任せます」 ああ、そうか。猛は、ここにいる人たちをうたがってるのか。 蛭間さんの言うことが本当なら、人形は今朝以降になくなったことになる。 てことは、このなかにいる誰かが、どうにかしたってことだ。 蛭間さんは、ちょっとのあいだ、だまっていた。 が、しばらくして、 「警察には届けない。人形は、また作ればいい」と、宣言した。 やっぱり、人間関係に波風立てることを恐れたのか。 「そういうことなら、えんりょなく、みんなで見物に行きましょう」 すっかり兄ちゃんのペースで仕切ってる。けど、蛭間さんは、なんの疑問も持たずに、うなずいた。 猛には、そういう、ふんいきがある。まかせとけば安心って思わせるサムシングだ。 というわけで、僕らは二階へ上がっていった。
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