325人が本棚に入れています
本棚に追加
細野さんが青ざめる。やっぱり、商売がらみだから。
「保管場所は、どこ?」
「いつもの戸棚です。アトリエの。カギはかけてあった」
「カギがかかってたのに、なくなったの?」
「そうです。カギがあけられ、人形がなくなってる」
みんなは、たがいの顔をうかがう。
「盗まれたってこと?」
ささやくように、細野さんが言うと、今度は立川さんが、
「思い違いじゃないのか? 自分で場所を移したとか」
蛭間さんは首をふる。
「人形は完成直後に棚に入れて、動かしてない。
カギをかけたのは昨日だが、今朝も、ちゃんと確認した。そのときは入ってたんだ」
みんなが、ちんもくする。
すると、猛が言った。
「そのアトリエっていうの、見せてもらっていいですか?」
まがりなりにも探偵だもんね。
「そうよ。たしかめてみましょう。もしかしたら、誰かが見て、別のとこに置いただけかもしれない」
細野さんが率先して二階に上がろうとする。
猛が、とどめた。
「待ってください。ほんとに盗難事件なら、警察に届けなきゃいけない。全員で上がると、みんなの指紋がついてしまう。警察の捜査に、さしさわりが出ます」
うむ。探偵。
「ああ、それなら掃除用の手ぶくろがあります。みんな、あれをつければいいんじゃないですか?」
愛波さんが持ってきたのは、五十枚入りの薄いビニールの手ぶくろ。
猛は愛波さんの機転を渋面で受けいれた。
「ほんとは髪の毛とかの遺留物もあるから、大勢で行かないほうがいいんだが。まあ、そこは蛭間さんの判断に任せます」
ああ、そうか。猛は、ここにいる人たちをうたがってるのか。
蛭間さんの言うことが本当なら、人形は今朝以降になくなったことになる。
てことは、このなかにいる誰かが、どうにかしたってことだ。
蛭間さんは、ちょっとのあいだ、だまっていた。
が、しばらくして、
「警察には届けない。人形は、また作ればいい」と、宣言した。
やっぱり、人間関係に波風立てることを恐れたのか。
「そういうことなら、えんりょなく、みんなで見物に行きましょう」
すっかり兄ちゃんのペースで仕切ってる。けど、蛭間さんは、なんの疑問も持たずに、うなずいた。
猛には、そういう、ふんいきがある。まかせとけば安心って思わせるサムシングだ。
というわけで、僕らは二階へ上がっていった。
最初のコメントを投稿しよう!