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「うわあッ、かーくんだ! かーくんだあ!」
夏だ。盆地だ。京都は暑い。
そりゃ、蘭さんのおかげで、わが家も全室エアコン付きにはなったよ。だからって、どの部屋も二十四時間、クーラーつけっぱなしにできないじゃないか。
ひかくてき涼しい午前中は節電してるのだ。
キッチンでガス使ってると、汗、したたりおちるよね。
このクソ暑いってのに、うちの兄は、さっきから玄関さきで、何をさわいでるのか。
だいたい、「かーくん。かーくん」と、さけんでるけど、『かーくん』は僕のあだ名だ。
姓は東堂。名は薫。
二十三さい。彼女いない歴二年と半年。
別れた理由は「ごめん! 薫のあんちゃん、好きになってしもた!」
いつものパターンだ。
弟の僕が言うのもなんだが、兄はカッコイイ。
そんじょそこらの『カッコイイ』じゃない。超カッコイイ。
長身で超ハンサムで、なんで芸能人にならないの?ってくらい。
だけど、僕はここにいるっていうのに、「かーくん。かーくん」と、わめきたてる兄のお脳のぐあいは、大丈夫なのか?
僕は心配になって、ゆでた冷麺をザルにあげた。玄関に向かう。
「猛。さっきから、なに言ってんの? 僕、こっちなんですけど」
猛は一人ではなかった。
玄関には僕らの友人、三村くんが立っている。
「わあ、三村くん。ひさしぶりぃ。アメリカから帰ってきたんだ」
「んん、こないだなあ」
三村くんは猛と同い年の二十六さい。いや、誕生日によっては、もう二十七か。
前はアニメの女の子のフィギュア製作で食ってた。が、先行きに悩んで、しばしば自分探しの旅に出る。
芸術家とは思えないチンピラ風貌の大阪人。
ん? 待てよ。なんで、三村くんに会って、「かーくん。かーくん」さわいでたんだ?
「あ、そうか。僕を呼んでたのか」
それにしちゃ、えらいさわぎようだったが……。
猛は、いつも泰然とかまえて、むだにさわぐタイプではない。
いったい、なにごと?
見れば、猛は目をうるませて、人形をだっこしていた。
ぎゃあッ。兄ちゃんが狂ったあーッ!
「兄ちゃん、お願いだから、あぶない人にはならないでッ!」
「だって、かーくん。かーくんなんだよ」
「かーくんは僕」
「こいつも、かーくんだ」
世にも幸せそうな顔して、猛は、それをかかげてみせた。
「な? 小二のころの、かーくん」
こ……これはっ!
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