一章 人形は、かくれんぼしましょう

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幼児っぽい体形。 絶妙なアヒル口。 悩みのなさそうな目つき。 僕だ。子どものころの僕。 ただし、八分の一スケール。 小人の僕だ。 もちろん、人形だ。 「わあ、すごい! これ、三村くんが作ったの? こんなに女の子っぽくはなかったけど、でも似てるよ」 「なに言ってるんだよ、かーくん。そっくりだぞ。一番、可愛かったころのかーくんだ」 猛め。うるさい。女顔コンプレックスなのに。 それで、はしゃいでたのか。 猛は長身、超イケメンだけじゃなく、超絶のブラコンなのだ。 というのも、わけがある。 うちの東堂家には、先祖が受けた呪いがある。 一族に長命な男子が一人いて、あとは全部、若くして死ぬーーという呪いだ。 僕らの親も親戚も早くに亡くなって、いまや兄弟は二人きり。 つまり、僕か猛のどっちかが、必ず早晩、昇天してしまう運命だ。 そんなわけがあって、僕らは兄弟のきずなをとても大事にしている。 でも、猛のは、ちょっと行きすぎ。 「わかったからさ。そんな大声ださないでよ。蘭さん、まだ寝てるんだから」 「あ、悪い。悪い」 ぜんぜん悪いと思ってない顔だ。 とろん、としちゃってさ。 マタタビかいだミャーコ(愛猫)だね。 ちなみに、蘭さんは僕らの下宿人……というか、パトロン? 売れっ子のミステリー作家で、僕らの生活の経済的面倒を見てくれている。 「はあ、カワイイなあ。このかーくん、おれにくれよ」 「ええで。それ、習作やしな。ほんで、ほれ。こんなんも、あんで」 おおッ、紙袋から出てきたのはーー 「猛だあ! 猛だ。猛だ。兄ちゃーん。そうなんだよねえ。小六のタケルぅ。ガキんちょのくせに、妙にキリッとしてさあ。 このころの猛はねえ。成績優秀。スポーツ万能。スーパー小学生だったよね。 スーパー中学生にスーパー高校生……ああ、でも今は、このていたらくかあ……」 「かーくんだって、さわいでるぞ」 はッ。しまった。あこがれ(だった)の兄ちゃんを見て、つい、こうふんしてしまった。 「ごめん。ごめん。この猛、僕も欲しいなあ」 「ええで。それも習作やし」 習作、習作って、なんか失礼だなあ。 すると、僕の心を読んだように、三村くんはニヤッと笑った。 ふたたび、ガサゴソと紙袋が鳴る。 「どや!」という、その顔は、まさにドヤ顔。 はうッ! 僕は自分をオタクともヘンタイとも思ってない。
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