一章 人形は、かくれんぼしましょう

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でも、人形を見て胸がドキュンッてなったのは、オバケ屋敷以外では初めてだ。 「これ、ヤバイよ!」 「せやろォ」 それは、とんでもない美少女の人形だ。 パッチリ二重の西洋人の子どもみたい。 白い肌に、ほんのりピンクのほお。 どう見ても、ソフビかなんかでできてるんだけど、乳白色の色合いが、まるで人肌。 くるんと上向きのまつげは、たぶん市販のツケまつげなんだろうなあ。 「カワイイなあ。こんな子いたら、さらうよね。美少女」 「美少年だろ。だって、これ、蘭だ」 あ、そうか。よく見れば、なるほど。蘭さん。 僕らは声をそろえて笑った。 「そっかあ。そりゃ、さらわれるよねえ。可愛すぎィ」 「ガラスに入れて、かざっとくよなあ」 笑いあってると、二階からトントンと、階段をおりてくる足音。 「なに、さわいでるんですか? 目がさめちゃいましたよ」 アクビをしながら、ろうかを歩いてくる蘭さん。 僕らは人形と実物を見くらべた。 おおっ、さすがは本物だ。 たとえアクビ中でも、寝グセついてても、パジャマ姿でも麗しい。 三村くんは、深く、ため息をついた。 「あかんなあ。ええ出来やと思てんけどなあ。やっぱ、モノホンには、かなんわ」 うーん、たしかに、じゃっかん、見劣りするかな? 土台、蘭さんを再現するなんて、ムチャだって。 うちの猛も、そうとうのイケメンだ。が、蘭さんは、そういうんじゃない。 もうね。絶世の美青年。 こんなに綺麗な人、この世に存在してもいいのかって思うよね。 おかげで、蘭さんは子どものころから数々のストーカー被害にあってきた。変質者にさらわれそうになったり。硫酸あびせられそうになったり。 僕らと暮らしてるのは、友だちだからってのもある。けど、それ以上にボディーガードが必要だからだ。 「あ、なんですか! それ」 蘭さんは僕らの手元を見て察した。 僕は猛人形、猛は僕人形、三村くんは蘭さん人形、にぎってるしね。 「なんで僕だけ、そんな変な服、きせられてるんですか? こんなの露出狂でしょう」 蘭さんだって、いつも変な服、きてるくせにぃ。 と思うのだが、僕らは誰も何も言わない。それについては、のちほど、くわしく。 たしかに、蘭さんドールだけ、レース編みのすけすけのやつをきせられていた。 それがまた人形の白い肌にあいまって、なんか、エロい。似合ってるなあ。
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