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「それな、赤城さん作や。本体の写メ送ったら、宅急便で送ってきてん」
蘭さんは歯がみした。
赤城さんも僕らの友人。ファッションブランドのオーナー兼デザイナー。だから、服のセンスは抜群にいい。
だけど、ちょっと、蘭さんに特別な思い入れがあるんだよねえ。
「きっと夜なべしたんだね。赤城さん。愛情を感じる」
「うん。似合ってるんだから、いいだろ。蘭」
「猛さん、ひとごとだと思って。猛さんの服と、とりかえちゃいますよ?」
「あ、かんべんしてくれ」
「ほら、やっぱり、抵抗あるんじゃないですか」
「言うとくけど、それ、交換でけへんで。本体の身長、ちゃうからな」
「赤城さん……あとで目にもの見せてやる」
怖いなあ。蘭さんの目にものって、どんなだろう。
僕らは玄関先で、ひととおり人形遊びをした。
二十歳すぎた男が四人ですることじゃない。
「あ、そうそう。冷麺、作りかけだった」
「おれも食わしてんか。腹へった」
「三村くん。もしかして、それで、うちに来たの?」
「ちゃうって。京都に用事あったんや」
まあ、いいけどね。二人前入り二フクロあるから。数はあう。
十五分後。
僕が冷麺を居間に、はこんだときには、クーラーが快適にきいていた。いつのまにかミャーコも来て、蘭さんに、すりよってる。
「で、三村くんの用事って?」
三村くんは僕が渡した冷麺を見て、一瞬、だまった。
あれ? もしかして、蘭さんのだけ高級なハムだって気づいたのかな?
僕らのは赤ハムぅ。
「おれのそんけいする人形作家がな。京都におんねん。こないだから、なんべんもかよって、弟子入り頼んどるんや」
「弟子入りかあ。じゃあ、本気で人形作家、めざすんだ」
「本気っちゅうか。フィギュアも造ることじたいは、キライやなかったなって。まあ、気づいたわけや」
「ふうん。よかったね。自分、見つかって」
「まあな」
三村くんは、てれくさそうに笑った。
「それで、僕らの人形、せっせと造ったの?」
「これは見本やな。おれが、そんけいしとる人はビスクドールやってんねんけどな。あれは、窯ないと、でけへんやろ」
うん。まあ、家のオーブンとかじゃムリだろう。たぶん。
「ビスクドールかあ。王道だね」
「せやろ? 前から、そんけいしとった人がな。二年前に京都に帰ってきてんねん。行かん手はないやろ」
押しかけたわけか。三村くんらしいな。
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