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離れていく気配を感じながら、遠ざかったのを見計らってガバッと起き上がる。
そこからの俺の決断は、雷光の如く早かった。
「…あの時、俺が起きてたの知っててやったのか?」
「当たり前じゃん。兄貴の寝た振りってバレバレだもん。それにさ、あの日のうちに急に一人暮らしするとか言い始めたじゃん?」
一気に脱力感。急に恥ずかしくなって顔に熱が集まり始める。
「兄貴が一人暮らししても諦めきれなかった。それよりも、逃げられたことが悔しくて。流石に彼女が出来たときはショックだったけど」
だって人間、追われたら怖くなって逃げたくなるだろ?追われれば逃げるの如く。本能がそう訴える。
…それが弟ならば尚更である。
「俺に落ちないやつはいないんだよね?」
「それは女の場合であって」
忘れるな、俺は兄である前に男だ。
「ドンとぶつかれって言ったよね?」
「普通弟の応援くらいするだろ!」
その対象が自分であるなんて想像出来るわけない。
「ヤっちまえって言ったよね?」
「それはそういう意味じゃ…っ!」
両腕を押さえ付けられ、身動きが取れない。首筋に落ちてくるキスの嵐を止める術を知らない。
…あぁ、俺はあの時からこうなるような気がしてた。何でそんなことが解ったのかって?何となくとしか言えない。俺にも理解不能。
だから逃げてきたのに。ここまでしつこく追われるなんて予想出来なかった。
力不足が原因で弟に下剋上を許す俺。例えるなら、そう。縞馬な俺とライオンな涼太。
捕まったら二度と離れることは許されない。
「…解ったよ、降参だ」
俺は全身の力を抜き、完全に抵抗を止めた。
追ってきた弟を、受け入れた瞬間だった。
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