第1章

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「…久々に来たなぁ。」 家を出て5分ほど歩いた所にある定食屋の前で、俺は立ち止まる。 店の名前は『なかや』。 ここに来るのは何ヶ月ぶりだろうか。 咲子と別れる前に来たっきりだから…もう、4ヶ月以上前になる。 それまでは、一人暮らしを始めてから週に1回は通い、美味しい定食を味わっていた。 かれこれ、もう5年以上お世話になっている。 もちろん、咲子とも何回も来た。 …だからこそ、行くのを躊躇っていたのもあった。 咲子との関係が終わってから気持ちの整理がつくまで、足を運ぶことが出来なかった思い出の場所。そのうち仕事も忙しくなり中々行けなくなっていたが、気持ちの整理もついたし、仕事も今日の最終プレゼンが終わった今、やはりここの定食が恋しくなった。 仲良かった店長の親父さん、俺の事を覚えているだろうか。 いつも咲子との事を応援してくれていたから、やはり報告しなきゃなぁ。 意を決して、俺は『なかや』の暖簾をくぐる。 「いらっしゃーい!」 親父さんの威勢のいい声が響いた。変わらないその雰囲気に、俺は少し懐かしさを感じ、ほっとする。
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