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俺は昨日、3年付き合った彼女と別れた。
所謂"傷心の身"ってやつだ。
沈んだ気持ちを引き上げる為、無心でパソコンと向き合いキーを打つ。
いくら落ち込んでいるからって、仕事に支障を来す訳にはいかない。大人なのだから、仕事とプライベートはきっちり分けなければならない。
俺は今、明日の会議の企画書を仕上げている。この会議は、俺の企画書を基に進められていくものだ。
つまり、企画書の出来次第で、俺の会社での評価が決まってしまう。
初めての俺の評価は、出来るだけ良い方向に進めて置きたい。
「なぁ和樹」
「呼び捨てにするな」
「…兄貴」
「何だ」
パソコンとにらめっこしている俺の後ろから声が掛かる。
俺の弟・涼太は、すっかり綺麗に整頓された俺の部屋を見回しながら口を開く。
「本当に別れたんだね」
「…人の心の傷を掘り返すな。見りゃわかるだろ」
「兄貴の荷物って本当に少ない」
「…まぁ殆んど咲子の私物だったしな。元に戻っただけだ」
…自分で言ってて悲しくなってきた。
俺と元カノ・咲子は、この小さな1Kの一部屋で同棲していた。
元は、俺が大学入学と同時に住み始めた格安アパートで、もう6年目になる。
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