第1章

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夏ならではのジメッとした暑さが身体に纏わりつく。 真夏の夜空を見上げながら、俺は静かに歩く。 いつだって星は綺麗で、心が浄化される。 夏はやはり、天体観測に行きたくなる。 また、あの頃のように行けるようになるだろうか。 「…兄貴ー」 涼太が、しつこく俺を呼んでいる。 『なかや』で尚ちゃん達に別れを告げ、俺は家路を急いでいた。 そんな俺の後ろを、さも当然のように涼太が付いてくる。 「兄貴ー。兄貴ってばー」 「うっせーな。何だよ帰れよ」 「ひどーい」 「可愛こぶるな!連絡して来なかったお前が悪い」 「だからごめんってば」 「ルールを破ったのはお前な。だから今日は帰れよ」 現在は8月。学生は夏休みに入ったばかりだ。 大学には来ないだろうと思っていたから、ちょっと油断していた。 前回涼太が訪ねて来た時、あいつの思いを理解した今、俺は一線を引くためにルールを設けた。 涼太の思いは受け入れたが、それには応えられない。 況してや、その気がない俺をどうこうしようなどと考えている涼太を、これ以上俺に近づけたくなかった。 ルール 1.俺の家には泊まらせない 2.来る時は必ず連絡してくる事 たったこれだけだが、こいつは早速破りました。 という訳で、絶対に今日は譲らない。 「お前、部長なんかやってんの?」 そう言えば、こいつサークル入ってたのかとふと思い出した。 「入ってるよー!」 俺から話しかけられるとは思わなかったのか、下がっていたテンションが急上昇していくのが解った。 ちょっとウザい。 「何のサークル?」 「天体観測」 「え?」 「兄貴の入ってたサークルだよ」 涼太が俺の大学に入った事は知っていた。 学部が違った為、涼太が一年のうちはキャンパスが違っていた。 だから全く会う事なく、俺は卒業となった。 しかし、サークルとなれば話は別だ。 「お前、俺がいた頃は居なかったよな?」 「兄貴卒業してから入ったから」 あー、なるほど。 あの時は咲子もサークルに居たし、今の俺たちの状況を見ても、運が良かった。 「あ、兄貴、会社の夏休みいつから?」 「何で?」 「サークルで合宿があるんだよ。OBもOGもいっぱい来るから、兄貴も来ないかなって思って」
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